夜の王宮上空、月が血のように赤く染まる。
ルチフェロは純白のジャケットを翻し、六枚の白い羽根を広げて宙に浮いていた。黄金の剣が月光を浴びて妖しく輝く。彼は神の使徒を名乗り、王を暗殺しに来た。

「罪深き王の首を、天に捧げる!」
その声に応えるように、闇から一人の男が飛び出した。
ガシャバ──秘密警察長。白の軍服に身を包み、腰に拳銃を吊るしただけの丸腰。だがその肉体は、常人の域を超えていた。

「天に捧げるだと? 笑わせるな」
ガシャバの足が地面を蹴る。爆発的な加速。一瞬でルチフェロの懐に潜り込んだ。
「なっ──!?」

黄金の剣が振り下ろされる。だが遅い。ガシャバの右手がルチフェロの白いジャケットの胸元を掴む。布地が悲鳴を上げて裂けた。

ビリリリリリッ!

白い布が無残に引き裂かれ、月光に晒されたルチフェロの胸が露になる。ガシャバの左手がその背に回り、羽根の付け根を鷲掴んだ。
「羽根は飾りか?」
「離せ、この──!」
ルチフェロが剣を横薙ぎに振る。黄金の刃がガシャバの首を狙う。だがガシャバは笑ったまま、身体を捻った。刃が空を切り、火花が散る。

ガキィィィン!

金属が擦れる甲高い音。ガシャバの軍服の肩が裂け、血が滲んだ。だが彼は微動だにしない。逆に力を込める。
「ぐっ……!」
ルチフェロの顔が歪む。次の瞬間、ボキッ!
白い羽根が一本、根元から千切れた。鮮血が夜空に舞い、月光に赤く光る。

「羽根を失った天使は、ただの人間だ」
ガシャバが空中で身体を回転させる。ルチフェロを振り回し、地面に向かって叩きつける。だがルチフェロは残りの羽根を必死に羽ばたかせ、なんとか姿勢を保つ。
「まだだ!」

黄金の剣が再び閃く。今度は真正面から突き。ガシャバの心臓を狙って。
だが、ガシャバの右手が剣を掴んだ。素手で。黄金の刃が掌を切り裂き、血が滴る。だが彼は離さない。

「甘い」
左の拳がルチフェロの腹に突き刺さる。衝撃が内臓を潰し、ルチフェロの口から血が噴き出した。
「がっ……!」

その隙にガシャバは拳銃を抜く。銃口をルチフェロの顎に突きつける。
「今ある状態で祈ってみるがいい」

ルチフェロの瞳が恐怖に揺れる。残りの羽根が震え、黄金の剣が力なく落ちていく。
月光の下、白い布の破片と羽根、そして血が舞い降りる。
天使は墜ちた。秘密警察長の足下に、ただの敗者として。