午前5時。
アラームは鳴らない。ガシャバは毎朝、決まった時刻に目を開ける。
部屋の中には無駄がない。ベッドは軍規格のシーツで角まで折り目正しく整えられている。
鏡の前で短く髪を撫でつける。白髪に刈り上げ、鋭い白い瞳が映る。
「秩序は形からだ」
それが彼の口癖だ。
午前6時。
白い制服を身につけ、朝の訓練場に現れる。
兵士たちは直立不動。
「規律を守れ。規律を破る者は、国家を破る」
短く言い放つと、全員が息を呑む。
声には怒気も激情もない。ただ冷たい真実のように響く。
午前8時。
本部へ。
密告書が山積みだ。
彼は目を通す。
裏切り者、違反者、規律の緩み。
筆先で一つ一つを裁く。
「拘束」「再教育」「抹消」
その判断に迷いはない。
しかしページの端にある一枚、子どもの筆跡による密告文に、指が一瞬止まる。
“お父さんは夜、泣いていました。国家に逆らってると思います。”
一秒の沈黙の後、彼は封筒を閉じ、ただ一言。
「再教育。父子ともに」
午後3時。
尋問室。
汗と血の匂い。
叫び声を無視して、淡々と命令を下す。
だがガシャバの白い瞳は、どこか遠くを見ている。
その視線の奥には、幼い頃に壊された故郷の光景がよぎる。
秩序を欠いた群衆、燃える建物、倒れた義理の母親。
「混沌が人を殺す」
自分に言い聞かせるように呟く。
午後8時。
一人の部屋。
机の上には整列した書類と、封を切られていない一枚の古い写真。
制服の胸ポケットから取り出したそれには、笑顔の少年と女性。
ガシャバの手が一瞬だけ震える。
すぐに引き出しに戻し、鍵をかける。
午後10時。
窓の外を見ながら、冷めたコーヒーを飲む。
街は静かで、完璧に統制されている。
それが彼の作り上げた「秩序」だった。
だが、夜風が吹き抜けるたび、胸の奥で誰かの声が囁く。
――「本当に、これが平和なの?」
ガシャバは目を閉じ、低く呟く。
「痛みは、必要悪だ」
そして再び、無表情に目を開ける。
明日もまた、同じ一日が始まる。
アラームは鳴らない。ガシャバは毎朝、決まった時刻に目を開ける。
部屋の中には無駄がない。ベッドは軍規格のシーツで角まで折り目正しく整えられている。
鏡の前で短く髪を撫でつける。白髪に刈り上げ、鋭い白い瞳が映る。
「秩序は形からだ」
それが彼の口癖だ。
午前6時。
白い制服を身につけ、朝の訓練場に現れる。
兵士たちは直立不動。
「規律を守れ。規律を破る者は、国家を破る」
短く言い放つと、全員が息を呑む。
声には怒気も激情もない。ただ冷たい真実のように響く。
午前8時。
本部へ。
密告書が山積みだ。
彼は目を通す。
裏切り者、違反者、規律の緩み。
筆先で一つ一つを裁く。
「拘束」「再教育」「抹消」
その判断に迷いはない。
しかしページの端にある一枚、子どもの筆跡による密告文に、指が一瞬止まる。
“お父さんは夜、泣いていました。国家に逆らってると思います。”
一秒の沈黙の後、彼は封筒を閉じ、ただ一言。
「再教育。父子ともに」
午後3時。
尋問室。
汗と血の匂い。
叫び声を無視して、淡々と命令を下す。
だがガシャバの白い瞳は、どこか遠くを見ている。
その視線の奥には、幼い頃に壊された故郷の光景がよぎる。
秩序を欠いた群衆、燃える建物、倒れた義理の母親。
「混沌が人を殺す」
自分に言い聞かせるように呟く。
午後8時。
一人の部屋。
机の上には整列した書類と、封を切られていない一枚の古い写真。
制服の胸ポケットから取り出したそれには、笑顔の少年と女性。
ガシャバの手が一瞬だけ震える。
すぐに引き出しに戻し、鍵をかける。
午後10時。
窓の外を見ながら、冷めたコーヒーを飲む。
街は静かで、完璧に統制されている。
それが彼の作り上げた「秩序」だった。
だが、夜風が吹き抜けるたび、胸の奥で誰かの声が囁く。
――「本当に、これが平和なの?」
ガシャバは目を閉じ、低く呟く。
「痛みは、必要悪だ」
そして再び、無表情に目を開ける。
明日もまた、同じ一日が始まる。



