おっさん聖騎士の無自覚無双。ド田舎の森で木刀振り続けていたら、なぜか聖女学園の最強聖騎士に推薦された。~普通の魔物を倒しているだけなのに、聖女のたまごたちが懐いてくるんだが~

 「ふぅ、いい天気だな」

 雲ひとつない青空に、心地よいそよ風の吹く聖女学園中庭。
 今日は待ちに待った学園祭初日である。

 「約束通り、今日は一日わたしの護衛ですよ♪」

 そう言って得意げに腰に手を当てるのは、第三王女ティナ。
 少し前の王城晩餐会でなんだかんだあり、今日は護衛という名目で学園祭を一緒に回ることになった。

 にしても……本当に来ちゃったよぉ。
 マジで護衛も1人もつけずに。馬車はティナを降ろすと、サーっと帰っていったし。

 「どうしたんですか、ボクレン様? 早く行きましょう♪」

 屈託のない笑顔を浮かべて、俺の手を引くティナ。
 ま、くだくだ悩むのもいかんな。切り替えるか。

 彼女は半年前に聖属性魔力を発現しており、来年にはこの聖女学園に入学する予定だ。ならば、学園祭をいい思い出にしてくれたら、この子も来年がより楽しみになるだろう。

 「よっしゃ! 今日は一日楽しむか。ティナ!」

 「はい! ボクレン様!」

 てなわけで始まったティナ王女のエスコート。

 まずは軽く屋台を見て回る。
 揚げ菓子に焼き串、甘い果実ジュースに占いの出店まで並んでいて、学園祭の賑わいはまるで王都中央市場みたいだ。
 学生たちが呼び込みの声を張り上げるたび、ティナは興味津々で立ち止まっては俺の袖を引っ張る。

 「ボクレン様! 見てください、この飴細工! 食べると舌の色が……」

 ぺろっと出したティナの舌が、カラフルに染まっていた。
 う~~ん、普通にかわいい。

 あちこちで立ち止まっては食べ、見て、笑う。
 王女と庶民のおっさんが並んで歩くなんて妙な取り合わせだが、案外悪くない。
 それに、彼女も普段はここまで自由にはできないんだろう。舌を出したり、道端で食ったりなんてまずできない経験だろうな。

 ―――と、ふと聞こえてきたのは妙なざわめき。
 何やらひときわ長い行列ができている。

 「なんでしょう、あの人だかりは……?」
 「なになに……ええっと、『セイントメイド喫茶』って札が出てるな」

 メイド喫茶? あれ、どっかで聞いたような……
 首を伸ばす俺とティナ。さらに視線を凝らした瞬間、俺は息を呑んだ。

 行列の先に書かれた小さな文字。
 「担当:マシーカクラス」

 「あ、ああ! そうだった……ここは」

 俺とティナは列に並ぶ。
 待つことしばし、やっと順番が来て案内された教室の扉を開けると―――

 「お帰りなさいませ、ご主人様♡」
 「遅いですわ、旦那様♡」


 ――――――うぉおおおおお!!


 俺の目の前に現れたのは―――
 黒と白のフリルがひらめくメイド服に身を包んだ、聖女セシリアと聖女アレシーナだった。

 「こ、これが……聖女メイドというやつか……」

 セシリアはふんわりと微笑みながら、白いレースのカチューシャを頭に載せている。
 フリルのスカートが膝丈で揺れ、長い銀髪と絶妙にマッチしてまさに理想の「癒やし系メイド」そのものだ。

 一方アレシーナは……。
 赤みがかったツインテールを揺らし、堂々と仁王立ち。だが、胸元のリボンをやや引き気味に押さえて、実は少し恥ずかしい感を出している。
 その仕草が絶妙に破壊力満点で、言葉にするなら「お嬢様系ツンデレメイド」とでも言うのだろうか。

 そして特筆すべきは……胸元あきすぎぃいい。
 2人のご立派なものが、コンニチワして今にも出てきそうではないか。いや、目のやり場に困るけど……もう俺の眼球が言う事を聞かない。

 「な、なんだこれ……完成度が高すぎるだろ……」

 そしてさらに奥には―――
 慌てて転びそうになるマルナと、知的な雰囲気をまとうクリスティまでもが、同じメイド服で給仕をしているではないか。どの仕草もすばらしい。
 だいぶと前に同じ趣向の店に入ったことがあるが、そことは次元が違う。


 「メイド聖女! かわいすぎるぅうう!」


 あ……おっさん、思わず叫んでしまった。
 いや、叫ばずにいられるか。こんなの国宝級だ。

 「ムうぅう……ボクレン様! はしゃぎすぎですっ!」

 すかさずティナが頬をふくらませて抗議してくる。

 「わたしという護衛対象を差し置いて、どこ見てんですか……ぷんっ!」

 いやいや王女様、今ばかりは許してくれ。これは国を揺るがすレベルの衝撃なのだ。
 ティナはぷくっと頬を膨らませるが、その姿がまた子犬みたいで可愛い。
 ははっ……この子も来年は聖女か。

 「ティナも負けずにかわいいぞ」
 「えへへぇ~~本当ですかぁ~~わたしもメイド服着ちゃおうかなぁ」

 マジか! それは是非とも……って! いかん! いかんぞ、おっさん。
 王女にメイド服着せたとかバレたら、おっさんガチで打ち首にされてしまう。

 名残惜しくお出迎えの余韻に浸っていると、別のメイド聖女がテーブルに案内してくれた。
 ふはぁ~~スカートみじけぇええ……なんだここは。おっさんを興奮死させる気か。

 テーブルについて、水を一気飲みするおっさん。

 「う、うまい! これは聖水なのか!?」
 「そんなわけないですよぉ……もう、ボクレン様さっきからワクワクしすぎですよぉ」

 若干呆れ顔のティナだが、まあ許してくれ。おっさん、高揚が抑えきれない。
 しばらくたって、メイド聖女たちが料理を運んでくる。
 目玉はもちろん―――オムライスだ。

 俺の知識が正しければ、例の儀式が行われるはず……

 「それでは……おいしくな~れ、です♡」
 「わたくしの魔法を授けますわ……さあ、おいしくおなりなさい♡」

 セシリアやアレシーナが、ハートを描くようにケチャップをかけながら唱えてくる。
 マルナもクリスティも、しっかり俺のテーブルに来て「おいしくな~れ♡」をしていく。

 ……なんだこれ。

 ヤバい……おっさんちょっと天国に逝きそうになった。

 メイド聖女オールスターのおまじないを浴びたオムライスなんて、神の祝福を超えている。
 俺は真剣に思った――全財産をここにつぎ込んでもいい。いや、つぎ込もう。

 ―――その時。

 「変態は退店してもらうぞ」

 聞き覚えのある声だ……おいおい、まさか……

 振り向けば、そこにいたのはリンナ副隊長。

 しかも―――メイド服姿で。

 「おいおいおい……リンナまで……!?」

 リンナは不慣れなフリル姿で、ぎこちなく他の客を接客していた。

 「き、貴様……じゃない……ご、ご、ご主人様……こちらの席にすわれ!」

 おおぉぉ……!? 1人だけ別次元の接客しとる……
 でも、顔を真っ赤にして客をぶった切る姿は逆に新鮮すぎる。

 「な、なんだろう……でもなんかいい……」

 恥じらうリンナと、荒っぽい言葉遣いのギャップ。
 なるほど……これはファンがつくぞ。実際、他の客席でも「リンナ様ー!」みたいな声援が上がっている。
 そんなリンナと視線が合った。

 「な、なんだボクレン! ジロジロ見るな……へ、変態っ!」

 「うぉおおおお! きた! リンナ様、変態のひと声きたぁああ!」
 「オプションに罵声ってあるのか?」
 「いや、裏メニューだろ!?」

 周りの席から次々に野郎どもの嬉々とした声が上がる。

 「う~~む……これはこれで……アリだな」

 コアなリンナファンが確実に育っていることを実感しつつ、俺はオムライスを頬張った。

 こうして、学園祭の初日は大満足のまま夕方を迎えるのであった。
 歩きながらも、ずっと余韻が頭に残る。すげぇ店だった。

 「ボクレン様ぁ~~」

 ああっ! やべぇ……夢中になりすぎて、あまりティナのこと構ってなかった。

 「わ、悪かった。夜の魔法演舞はちゃんとエスコートするから」
 「ふぅ……まあ、いいですけど。そういえばアレシーナさんが出場されるんですよね? 聖女魔法演舞」

 ああ、そうだ。

 俺の天使が輝く時間だな。