おっさん聖騎士の無自覚無双。ド田舎の森で木刀振り続けていたら、なぜか聖女学園の最強聖騎士に推薦された。~普通の魔物を倒しているだけなのに、聖女のたまごたちが懐いてくるんだが~

 「もう無理ぃいい~~さすがに終わったぁ~~わあああん!」
 「あ、あ、あ、アレシーナさん、【浄化】です、【浄化】はりましょう! あ、えっと【治癒】でした!」
 「落ち着きなさい、セシリア! こ、こ、こういう時こそ深呼吸ですわ! さあ、レイニさんも一緒にですわ!」

 大量の赤トカゲを見て、パニックに陥る美少女たち。

 ……まあ、わかる。
 トカゲが好きな女の子はそういないだろう。一匹ならともかくゾロゾロと湧いてでたとなれば、そりゃ叫びたくもなるわ。

 ―――ならば。ここはおっさんの出番だな。

 俺はゆっくりと木刀を抜き、3人の前に立つ。


 「――――――グゴォオオオ!!」
 「――――――グゴォオオオ!!」
 「――――――グゴォオオオ!!」
 「――――――グゴォオオオ!!」
 「――――――グゴォオオオ!!」


 「ふぁあああ! すべてのレッドドラゴンが、豪火球の準備してるうぅうう!!」

 だから心配するなって。大丈夫だ。

 牙の奥から赤い炎を宿すトカゲたち。空気が一気に熱気を帯び、真っ赤な光が森を照らし出す。
 おうおう、トカゲといえどこれだけ集まると、雰囲気が出るな。

 「ぼ、ボクレンさん……さすがに」
 「こ、これはいくらなんでも……ですわ」

 「ひぃあああ! 焼かれるぅう……! 焼肉になるうぅう!」

 セシリアたちの悲鳴をかき消すように、トカゲたちの喉奥が赤々と輝きを増す。次の瞬間、爆炎の火球が一斉に吐き出された。
 いくつもの火球が俺たちに迫る。

 「懐かしいな……」

 俺は木刀を肩に担ぎ、軽く腰を落とした。

 「……よし、バッティング練習開始! よろしくお願いします!!」

 ピシッとトカゲたちに頭を下げる。

 「な、なんですか、ボクレンさん? 誰に言って……?」
 「予想不能すぎですわ! ボクレン!」
 「ひぃいい、ドラゴンに一礼してるぅう、ボクレンさんが壊れたぁああ!」

 いや、壊れちゃいない。これは俺のクセだ。
 オヤジに叩き込まれた、大事な礼儀なんだ。

 すぅ~っと息を吸い込むと、木刀を右に引き、両足を大地にがっしりと固定する。
 身体は右に捩じりきって、顔はトカゲたちの真正面を向く。

 そして、迫り来る火球を―――


 「――――――ぬんっ!」


 振り抜いた木刀が唸りを上げて、ズバァン!と火球を叩き返す。

 「ひぃいいいい! ドラゴンの火球を打ち返したぁあああ!」
 「ぼ、ボクレンさん……なにやって……」

 「ああっすまん! ちょいまがちまった」
 「それはどうでもいいです!」

 どうでもいいことはない……芯に当てないと、吐いた相手には返せない――――――ぬんっ!

 「――――――ギャンッ!!」

 2度目に俺が打ち返した火球は、別の赤トカゲに命中した。
 ぬぅ……またミスった。感覚が鈍ってやがる。

 だが、懐かしいな。

 「これ、トカゲノックだ」
 「ええっ、もしかして鍛錬の一種ですか!?」

 セシリアが目を丸くして声をあげる。

 「ああ、昔オヤジに良くやらされたんだ。トカゲの火球を全弾はじき返す鍛錬だな」
 「ええぇ……それ鍛錬っていうか……」
 「娯楽が混ざった面白い修行だろ。これはおれも好きだったからな。王国でも流行るかもしれんぞ」
 「流行らないですよ!? ボクレン家は超超特殊ですからね!?」

 え? そうなん?
 もしかして野球は女子受けが悪いのか? 面白いし、素晴らしいスポーツだけどなぁ。

 とそんなやり取りをしつつも……

 「ぬんっ!」「ぬんっ!」「ぬんっ!」「ぬんっ!」「ぬんっ!」

 ひとつ、ふたつ、みっつ……怒涛の勢いで飛んできた火球が、まるで野球ボールのように逆方向へ打ち返されていく。

 何発目かで……

 「――――――ギュガアアァ……ァ……」

 よっしゃ、ジャストミート! そして、打ち返し成功!
 ああ、木刀振るたびに思い出してきた。

 ここは俺のホームグラウンドだということを。

 火を吐くトカゲに、木刀スイング。
 よく見た風景、ずっとやってきた鍛錬。
 まさに日常だ。

 「ぬんっ!」「ぬんっ!」「ぬんっ!」「ぬんっ!」「ぬんっ!」

 「―――ギャンッ!!」
 「グバァアア……アア……ァ」
 「グホォオオ……ッ!!」

 いい感じだ! のってきた!!

 俺はただただ無心で木刀を振り続ける。
 火球が打ち返されて、トカゲの群れを直撃するたび、鈍い唸り声と炎が空を覆った。

 やがて最後の一発をフルスイングで打ち返すと、轟音とともにトカゲたちはまとめて爆炎に呑まれ、黒煙をあげて空から落ちていった。
 ぷはぁ~~気持ちいい! やっぱ森は最高だな。

 さてと―――

 「おわったぞ~~」

 「…………」
 「…………」
 「…………」

 あれ? 返事がない??

 3人は固まったまま、無言で俺を見ていた

 よく見ると、全員の目からハイライトが消えている。

 え? なに……怖い……
 もしかして、おっさんばかり楽しみすぎたのか……。