おっさん聖騎士の無自覚無双。ド田舎の森で木刀振り続けていたら、なぜか聖女学園の最強聖騎士に推薦された。~普通の魔物を倒しているだけなのに、聖女のたまごたちが懐いてくるんだが~

 「そうか、ゴブリンが苦手だったんだな」

 「違いますよぉおお! 別に普通のゴブリンなら大丈夫なんですぅうう!!」

 いや、ごくごく普通のゴブリンなんだが。

 「どうしたんだレイニ。昼飯変なもんでも食ったか?」

 泣いたり叫んだり。さっきから落ち着きがまったくない。
 もしかして変なキノコでもつまみ食いしたんじゃないか。

 あ……そうか!

 レイニも聖騎士だ。
 こんなド田舎の森まできたのに、おっさんばっか活躍しても面白くない。
 ましてや、ゴブリンなんて誰にでも瞬殺できる。

 しまったな……俺としたことが。

 久しぶりにホームに帰ってきた感じで、ワクワクしすぎてたのかもしれん。

 「悪かったレイニ」
 「ふぇ? なんです急に」
 「いや、おっさんの配慮が足らんかった」
 「ええ、いいですよ……ゴブリン倒してくれたしぃ」

 レイニのやつ、やはり拗ねてるな。
 よほどゴブリンとやりたかったんだろう。
 よし、次に出た魔物はレイニに譲ってやるとするか。


 「なんだかニヤニヤしてますね、ボクレンさん」

 アレシーナと共に【浄化】をかけ終えたセシリアが、銀髪を揺らしてこちらにきた。

 「セシリアの方こそ嬉しそうじゃないか」
 「ええっ……そうですか。だって……」

 おっと、イジワルな発言をしてしまったな。
 セシリアがルンルンな理由なんて決まってる。

 「良かったな。【浄化】も使えるようになって」
 「はい! これもボクレンさんのおかげです! 今日は【浄化】しまくりますから、バンバン魔物を討伐してくださいね」 

 セシリアがこの森に初めて来たときは、【浄化】が使えなかった。
 そこのことに必死に悩み苦しんでいた彼女だが、今やバンバンに使えるようになっている。
 しかも日を追うごとに上達している様子。

 俺が聖騎士になってまだ数カ月。
 この子の努力が実ってきてうれしいよ、おっさん。

 「ああ、だが無理しすぎるなよ」
 「は~~い」

 元気な声が返ってきた。

 さて、もう一人の聖女はと……
 えらく難しい顔をしてた。

 「アレシーナ、大丈夫か。行くぞ」
 「え、ええ。わかりましたわ」

 彼女にしては珍しく歯切れの悪い返事だった。
 聞くと、【浄化】の二重詠唱がうまくいかなかったらしい。
 単一の詠唱に、もうひとつ詠唱を重ねて行う?らしいが、おっさんに内容はわからん。

 「ボクレン、わがままを言いますわ。ワタクシ今回の旅路、すべて二重詠唱でいきますわ」
 「ああ、好きにしていいぞ」

 どうやら彼女は今回の旅路において、二重詠唱縛りを自ら課したようだ。これが滑らかにできないと、学園祭で披露する予定の三重詠唱はできないとか。
 まったく、俺の聖女たちは頑張りすぎだな。

 「ただし……あまり根を詰めすぎて無茶はするなよ」
 「ええ、わかってますわ。ボクレンがいるからこそ、わがまま言えますの」

 そう一礼すると、真っ赤な縦ロールを揺らして先に行くアレシーナ。

 ふぅ……妥協しない子だからな。
 まあなんかあった時は、おっさんも手助けしよう。

 再び移動を開始した俺たち。

 む……この気配は。

 「レイニ! いたぞ!」
 「へぇ? なにがですか?」

 「この気配はゴブリンだ。やったな!」
 「え? やったって……?」

 よしよし、なんていい森だ。

 「くるぞ! レイニ!」
 「はい! って、ボクレンさん、なにボ~っとしてんですかっ!」

 なに言ってやがる。
 レイニが待ちわびた見せ場じゃないか。

 「今回はレイニに任せる。本当にゴブリンだから大丈夫だ」

 「ええぇ……信じますよ、ゴブリンなんですね」

 ズーンと響く振動。
 木々をかき分けて出てくる黒い影たち。

 「グギャギャ……ァ!」
 「キシィイイイ!」
 「グゴグゴッグゴォオオ!」

 ほらな、ゴブリンだ。
 俺はレイニの活躍を見守るべく、後方腕組待機だな。

 ……おい、レイニ?

 なんか動かないよ、この子。

 しばらくして、耳をつんざくような奇声が森中にこだました。


 「ひぃいい! 王冠かぶったの10匹でてきたぁああ! ボクレンさんのウソつきぃいいいい!!」


 泣きながらゴブリンに突撃していったレイニ。

 ……が、先頭の1匹に凄く時間がかかっている。
 大丈夫か? やはり昼飯に変なキノコ食っただろ、これ。

 とりあえずレイニと対戦しているゴブリンを除いて、他の奴はおっさんが木刀で殴っといた。

 さて、レイニの方は。

 まだ戦ってる……

 これは間違いなく腹を下しているぞ。
 そうか、レイニも可憐な美少女だからな。デリケートなことは、言いずらいのかもしれん。

 くっ……またも俺の配慮不足か。

 俺はすぐさま、レイニと戦っていたゴブリンの脳天を木刀で勝ち割った。

 「事情もくめず悪かったよレイニ」
 「ふぇええ……だ、だずけてくれてありがとうござすぅう」

 うわぁ、こりゃ相当に痛いようだ。

 「よし、あとは全部俺がやるから。レイニはセシリアとアレシーナの護衛に徹してくれ」

 てことで、でてくる魔物は全部―――

 「ぬんっ!」

 少し進むと、また出てきて―――

 「ぬんっ!」「ぬんっ!」

 そして再び―――

 「ぬんっ!」「ぬんっ!」「ぬんっ!」


 「ぼ、ボクレンさん待って! 【浄化】が追い付かないから!」

 おっと、調子に乗りすぎたか。
 なんかいつもの感じになってきて、エンジンかかってきた。

 「よし、【浄化】おわった? もう行っていい? いい? なあなあ?」

 「ちょっ……ボクレンさん、ワクつかないでください!」

 おっと、楽しさが漏れ出ていたか。

 そしてまたまた魔物の気配だ―――

 俺は出てくる魔物を片っ端から叩きまくった。

 「ボクレン、いきいきしてますわね」
 「ああ~~ん、やっぱあの人変態だぁ~~」
 「ワタクシのお屋敷や王城晩餐会などで、ストレスが溜まってたのかもしれませんわね」

 いやぁ~~アレシーナの言う通りかもしれん―――「ぬんっ!」

 やはり森はいい! 何が良いって! 

 木刀振るだけでいいんだ!!


 「ぬんっ!」「ぬんっ!」「ぬんっ!」「ぬんっ!」「ぬんっ!」


 こうして森での初日が終わった。

 焔玉果(レインボーフレアフルーツ)のなる大木までは、もう少し距離がある。今日はここで野営だ。
 適当に飯食って、ゆっくりとした時間が流れる。

 「そっかぁ~ボクレンさんは、たまに森に連れてきた方がいいのかなぁ」
 「そうですわね。王都だけだと運動不足になってるのかもしれませんわ」
 「なんでそんな散歩感覚なんですかぁ……お二人ともこっちの世界に戻ってきてくださいぃい」

 焚き木を囲んで、談笑する聖女2人と美少女聖騎士。
 いやぁ~~いつもはおっさん一人だったけど。こういうのアリだな。
 かわいい女子が3人もいるとはなぁ。こりゃ明日も張り切ろう。



 ◇◇◇



 翌日、昼ごろに俺たちは焔玉果(レインボーフレアフルーツ)のなる大木に到着した。

 「おお、実がなっているぞ!」

 やった、いっぱいついている。
 実がなっていない時期もあるから、これはラッキーだな。


 「ギュラォオオオオォオオ……!!」


 「ああそうだ、言い忘れてたが、あの実はトカゲが大好物でな」

 まあとくに問題ないだろ。
 にしても、久しぶりに聞くトカゲの鳴き声。声だけは一丁前なんだよ。

 「じゃ、まずはトカゲしばくか」

 俺が前に進もうとすると、袖をギュッと引っ張られた。
 3人同時に……

 「あの……ボクレンさん」
 「どうした、セシリア」


 「ギュガァオオオオォオオ……!!」


 「あれ……ドラゴンです……」

 「うわぁ~~ん、やっぱり来るんじゃなかったぁああああ~!!」


 またレイニが泣き出した。