おっさん聖騎士の無自覚無双。ド田舎の森で木刀振り続けていたら、なぜか聖女学園の最強聖騎士に推薦された。~普通の魔物を倒しているだけなのに、聖女のたまごたちが懐いてくるんだが~

 「ふはぁ……でけぇええ」

 おっさんの視界に広がるのは、ドデカイお城。

 「待てぃ! 貴様、なに用だ!」 

 そしていきなり門で衛兵にからまれた。

 「えっと、王様に呼び出されたんだ。入っていいか?」

 「はぁ? おっさんが昼間から何を寝ぼけている? 飲みたいなら市街地へ行け!」

 いや、酔っぱらってないけど。

 門からして入れん。

 「さすがに王城のセキュリティは強固だ……これはやはり帰った方がいいな。うん」

 回れ右しようとすると、左右から美少女2人にがっちりと両腕を掴まれた。

 「はいはい、ダメですからね。ボクレンさん」
 「まったく、ワタクシの聖騎士はもっと堂々とですわ」

 セシリアとアレシーナだ。

 「まったく……貴様というやつは」

 そう言いながら、王様からの手紙を衛兵に見せるリンナ副隊長。

 「こ、これは大変失礼いたしました!」
 「ど、どうぞお通りください!」

 くっ……そんな紙切れ一枚で通していいのか。
 おっさんが刺客だったらどうするんだ。

 という俺の思いは誰にも理解されず、グイグイと両肩を掴まれたままデカい城に入って行く。

 「ふはぁ……大きな中庭だな」

 聖女学園の中庭も大きいが、こちらはその上をいく。
 手入れの行き届いた花壇に噴水、荘厳な庭園がごとく左右に広がって行く圧巻の風景。
 絵にするなら、こういう場所を描くんだろう。

 そして城内の視線がおっさんに集まる。

 すげぇ見られてる……。

 「ふふ、木刀刺したボクレンがかなり珍しいんですね」

 先頭を歩くエリクラス隊長が声をかけてくれた。

 「今回の試合は非公開です。城内でも知っている人間は少ないのでしょう」

 ふむ……まあ、大事にされていないだけマシか。
 完全公開で人が来まくったら、おっさんちびっちゃうからな。

 やがて辿り着いたのは円形の闘技場。

 「ここが、試合場か」

 大きな円形の闘技場は石畳が敷き詰められており、淵にはぐるりと装飾がほどこされている。
 でてくるものすべてが立派だな。

 俺たちが指定の場所に到着すると、すぐに人が寄って来た。

 「お持ちしておりました」
 「学園聖騎士隊長、エリクラス殿ですな」

 「はい、本日はお招き頂きありがとうございます」

 「して、ボクレン殿はどちらに……」

 「ええ、こちらに」

 隊長が俺に視線を向ける。

 「いや、従者の方ではなく。……あ、もしかして遅れておられるのか?」

 おっさんここにいるよ。

 「いえ、こちらが学園聖騎士のボクレンです」

 「ええぇ……このおっさ……じゃない。はぁ……な、なるほど」

 ほらぁ~~やっぱおっさんここに来ちゃダメな人じゃん。
 出迎えた人も、びっくりだよ。

 しばらく動揺が隠せない様子だったが―――

 「……あ、陛下がお見えです。それに、王子殿下と王女殿下もご一緒に」

 出迎えの人が、ぴしっと背筋を伸ばして報告した。

 その瞬間、場の空気が一気にビシィッと引き締まる。

 角笛の音が高らかに鳴り響き、石畳の通路を黄金のマントを翻した王様が悠然と現れる。
 その隣には凛々しい王子と、華やかな王女。

 うわぁ……ほんとに来ちゃったよ。マジで……来なくていいのにぃ……。

 エリクラス隊長とリンナ副隊長が、いつにもましてピシッと姿勢を正す。
 そして両脇のセシリアとアレシーナが、俺に呟く。

 「大丈夫ですよ、ボクレンさん。堂々としていれば、きっと立派に見えます」
 「ワタクシの聖騎士ですもの。胸を張ってくださいませ」

 2人の天使に励まされるが……
 おっさんは今にも逃げ出したいのが本音。

 「……あれが、ボクレン殿か。なるほど、たしかに噂とは……違うな」

 王子が遠くから見下ろすような視線で呟いた。

 「ふふ、なかなか面白そうな方ね」

 王女の方は口元に扇子を添え、上品に笑っているが―――
 あれだ、絶対これ「珍獣を見る目」だ。

 そして、ついに王様が口を開く。

 「そなたが、ボクレンか」

 「は、はい……ぼくへ……あっ、学園聖騎士のボクレンです……」

 噛んだ。

 そりゃ噛むさ。相手は王様なんだぞ。

 「うむ、話は聞いておる。演習ではよくぞ聖女たちを守ってくれた。今日はその力、しかと見せてもらおう」

 「……あい!」

 よし、返事すらまともにできなかった。

 こうしておっさんは王族一同が見守る中、闘技場のど真ん中に立たされることになった。


 あ、そういえばおっさんの対戦相手はどこだ?
 緊張しすぎて、まったく周りが見えてなかったからな。

 「あちらが剣聖さまですよ」

 セシリアの視線のさき……エリクラス隊長と談笑しているじいさまがいた。

 俺の視線に気づいたのか、こちらにゆっくりと向かってくる。
 真っ白い髭面に、白髪。うむ、情報通りのじいさまだな。
 次第にその姿は大きくなっていき……

 ええぇ、これじいさまなのか!?

 胸板すげぇ、腕ふとい、筋骨隆々やん! 年齢詐称じゃないのか! 
 でもすげぇ髭ずらに白髪だな……じゃあ、じいさまか。

 「ボクレン殿、ようやく会えたのう」

 ええぇ、なんか満を持して会えたみたいなセリフ出てきたけど。
 おっさん、いっさい知らんのだがこの人。

 にしても……なんか既視感というか懐かしい感じがする。このじいさま。

 「ぼ、ボクレンだ。……です」

 「ふははっ、よいよい。こちらで呼び立てたのだ。わしにかしこまる必要はない」

 「そうか、それは助かる。どうも田舎育ちで固い言葉は苦手だ」

 「ふむ、エリクラスの言う通り面白い男だ。
 ―――わしは、元聖騎士ガスティーク。今はただの孫娘大好きじじいじゃ」

 朗らかな笑みを浮かべるじいさま。
 だが、その奥には燃えるような闘志が湧きあがりつつある。

 なにが孫娘大好きじじいだ。やる気満々じゃねぇか。

 俺たちは闘技場にあがり、向かい合った。

 「ボクレンさん、頑張ってください!」
 「ワタクシの聖騎士、気合ですわよ!」

 「ボクレン、いつも通りでいけ!」

 俺の天使2人に、副隊長殿が声をあげてくれた。
 王族ご一行もセシリアたちと同じく、闘技場の奥にある観覧席に着席している。
 周辺にはなんか壁が見えるな。誰かが【結界】を張っているようだ。

 準備万端ということか―――

 さて。

 俺は静かに木刀を抜いて、構えた。

 じいさまも剣を抜く。なんか凄まじく綺麗で高価そうな剣だ。

 次の瞬間―――

 「――――――ぬぅうううう!!」

 なんだ!? じいさまの身体が輝き出したぞ?

 「あ、あれは! おじいさまの【加護】? いきなりですか……!」

 観覧席からエリクラスの声が響いた。


 「ふぅうう、ボクレン殿、これがわしの【加護】―――戦神降臨(ゴッド・パワー)
 ようは身体強化の【加護】じゃ。全盛期とまではいかんが、これで貴殿といい勝負ができるじゃろう!! まいるっ!!

 ―――――――――ぬあああ!」


 瞬間で俺の前に肉薄するガスティーク。

 速いっ……!!

 「ぬんっ!」

 俺も瞬時に木刀を振り向く。

 木刀と剣が交差した瞬間―――
 闘技場がミシっと音を立て、空気が歪む。

 双方獲物は交差したまま、微動だにしない。
 いや、すぐには次の動作に移れなかったといった方が正しい。

 いい勝負ができるだと……
 重い一撃だったぜ。
 久しい感覚だ。

 ああ、思い出した。既視感があると思ってたんだが理由がわかった。
 オヤジか……このじいさま、死んだオヤジと同じかんじがする。

 そうかそうか。

 この感覚か。

 こりゃ久しぶりだぜ! おっさん燃えてきた!

 どれ。


 ひとつ――――――胸を借りるか!!