おっさん聖騎士の無自覚無双。ド田舎の森で木刀振り続けていたら、なぜか聖女学園の最強聖騎士に推薦された。~普通の魔物を倒しているだけなのに、聖女のたまごたちが懐いてくるんだが~

 ぽつぽつと灯る学園の街灯。
 赤く染まる夕空の下、俺は鼻歌交じりで学園の正門に向かっていた。
 アレシーナとセシリアはすでに聖女寮に戻り、残された俺には予定はない。

 で、これからどこへ行くかって?

 決まっている。エールを一杯やりにいくのだ。

 今日は気分を変えて、いつもと違う店にしてみようか。
 表通りのいつもは素通りしてしまうお高めな店。おそこに入っちゃおうかなぁ~~。

 おっさん何を余裕ぶってるんだって?
 そんな金あんのかって?

 ―――あるんですよ。ここに。
 俺は金貨の入った袋を持ち上げ、ジャラリと鳴らしてニヤリ。

 そう、特別ボーナスである。

 思わずスキップの一つも踏みたくなる。

 あ、ぶっちゃけしちゃってるな.おっさんスキップ。
 まあ、夕暮れだしそこまで人もいないし……

 「貴様ぁ……」

 いたよ……真正面に。

 綺麗な黒髪をさらりと流し、凛とした瞳で俺を射抜く女。

 「なんだその変態踊りは!」

 だれが変態踊りや。

 「違うぞリンナ。俺はちょっと浮かれてただけだ」

 「浮かれてもいいが、学園での変態は控えろ」

 だから変態じゃなくて、おっさんスキップだって。

 やけに絡んでくるな。
 あ、さては……

 「一緒に飲むか?」

 ボーナスが出たやつには、たかりに行くってのが世の常。

 「な! なんで貴様と2人きりで……(ま、まあいいけど)」

 「んん? 行くってことか? あ、ちなみに今日はボーナス出たから俺のおごりだぞ」

 「……わかった」

 「なにモジモジしてんだ。トイレだったら学園ですませとけよ」

 「ち、違うわぁ!!」

 リンナに思いっきり足を踏まれた。
 いや、だってお店によってはトイレは混むからな。と思ったんだが。

 ま、一悶着はあったものの俺とリンナは学園の正門まで来たのだが―――

 「あれぇ~~お二人で珍しいっすね?」

 声の主はバレッサ。後ろにレイニもいる。

 「おう、今からリンナとな」

 俺はジョッキを煽るポーズを取った。

 「へぇ~~デートっすか」
 「ええぇ、リンナ副隊長とボクレンさんって……そうだったんだ!?」


 「―――違う!! 断じてない! あり得ない!!」


 ……凄い形相で否定するな、リンナのやつ。
 まあ、おっさんなんかとあり得んことぐらい、誰でもわかるじゃないか。
 これはバレッサのネタだよ。

 お、そうだ。

 「バレッサとレイニもどうだ一杯。今日は俺のおごりだぞ」

 「わぁ~い、いくっすいくっす~」
 「え、じゃじゃ私も行きますぅ~」

 「くっ……二人とも止めたほうが良い。この変態と行ったら、ど、どさくさに紛れて尻とかさわられるぞ!」

 いや、さわらんがな。
 そんなんしたら、おっさん一発アウトだ。

 「あれぇ~やっぱ2人で行きたいんすか? リンナ副隊長?」
 「ええぇ! そ、そういうことなの? やっぱりぃいい!」

 「―――なぁあああ! ないないないないない、絶対にない!!」

 「だって、先輩と二人っきりで行きたいんっすよね?」

 「ち、違う! こい! バレッサもレイニもこい! 
 ―――あと、おまえらもこい! 全員こい!! 拒否はゆるさん!!」

 なんだ……リンナのやつ。周りの聖騎士を片っ端から誘い始めたけど。
 続々と集まり出す、美人聖騎士たち。

 こりゃ、いつもの黒豚亭は無理だな。



 ◇◇◇



 「うわぁ~~綺麗なお店っすね~~」
 「わぁ~~メニューも豪華ですよぉ」
 「ボクレンさんは、なににしますか~? あ、エールか」

 俺たちは王都の表通りにある、ちょっとお高い店にいる。

 なんだかんだで、結局クラス全員の聖騎士がついてきた。

 いつもの黒豚亭は人数キャパの問題でダメ。
 かといって、そこらの店にするにも……この子たちが美人美少女すぎてあまりにも目立ちすぎる。
 しかもその中におっさん1人とか……なんか周りの目もすごくいかがわしい感じで見てくるからな。

 なのでいつもは行かない、というか行ったことのない大通りの店に入ってみた。
 ここなら個室がある。

 「ああ、俺はエールでいいよ。みんな好きなものを頼んでくれ」

 「「「「「はぁ~~い」」」」」

 俺は冊子になっている立派なメニューをチラ見した。


 …………エール一杯5000ゴルドだとぉ!?


 黒豚亭ならば、ちょい飲みセット(エール+おつまみ2品)で500ゴルドだぞ。

 いや、今日はもういいんだ。
 そもそもこの特別ボーナスは、俺だけの手柄で得たものじゃない。
 みんなの協力があってこそのものだ。

 だから―――


 「遠慮はいらん! ――――――財布はすべておっさんがもってやる!!」


 「「「「「わぁ~~い」」」」」

 美人美少女たちのテンションが上がる。

 うんうん、これでいいんだ。

 俺は目の前に運ばれてきたエールに手を伸ばして、一気に喉に流し込んだ。

 ―――うめぇええ

 シュワシュワたまらん!

 さすがは5000ゴルド。
 安価なやつもいいが、これはこれでこくがあって喉ごしもいつもと違う。
 さらにこのグラスにも仕掛けがあるのだろう。
 キンキンの冷え具合がいっこうに変わらず飲める。つまりいつでもキンキングビグビだ。

 おっさんがテンションを上げていると、向かいの女性騎士は静かにグラスを口につけていた。

 「どうしたんだリンナ。いつもみたいに「―――エール追加だ! ジャンジャンいくぞ!」って飲まないのか?」

 ―――ガッ!!

 痛てぇえ!

 無言で思いっきり足を踏まれた。

 ああ、そうか。今日は部下が勢揃いしてるからな。副隊長としては、あまりはっちゃけるわけにもいかんのか。

 副隊長ともなると大変だな。

 「ボクレン……聖女アレシーナの件だが」

 そんなリンナが静かに口をひらいた。

 「おお、どうした?」

 「いや……貴様が聖騎士になったと聞いて驚いたぞ」
 「うむ、なぜ俺を指名したのか良く分からんが、彼女のたっての希望だからな」

 「ふん、そうだな。貴様のような変態を指名するなど……あたしも理解不能だ」

 俺は変態ではないぞ。

 が―――

 「たしかに、アレシーナほどの聖女が俺を指名するとはな」

 「ああ、だだ彼女は卒なくこなしているようで、まだまだ脆いところがある」

 たしかにリンナの言う通りかもな。
 あの子は無理をしている節がある。自身の聖女としての力、それに家庭における立ち位置など。が、それも含めてアレシーナという子なんだが。

 「まあおっさんのやれる範囲で務めてみるよ」

 「ふん……ま、ボクレンなら……大丈夫かもな」

 そう言うとリンナは持っているグラスをグッと煽った。

 「ああぁ~~また二人っきりの世界にひたってるぅうう~~」

 レイニか。
 けっこう酒も入っていい感じになってるじゃないか。

 「……二人っきりだと。レイニ!」

 「はゃい! 副隊長ぅ!」

 「チビチビ飲むのはやめだ! あたしに付き合え! さあぁ~~おまえらぁあ、飲むぞぉ!!」

 おお、リンナも素が出てきたな。

 「先輩~~こっちのテーブルにも来てっス♪」

 「おお、そうかよし! おっさんいっちゃうぞ~」

 こうして俺たちは、飲んで食って大いに楽しんだ。

 宴もたけなわかと思われた頃……


 「ああぁあ! 木刀のおっさんイラァ~~!!」


 ベロベロのマシーカ先生が乱入してきた。

 またかよ……


 「なにちょっといい店でぇ~~若い子はべらしてんのさぁ~~わたいもまざるぅううう~~
 ――――――エール100杯追加ラァアアア!!」


 それからめちゃくちゃになった……
 リンナは絡みモードに変わってしまい。しきりに「脱げ脱げ」叫ぶ脱衣騎士と化した。

 さらにはその他の聖騎士たちも全員猛烈に飲みまくり始めた。
 酒が入ったのかみんな近い。俺の膝の上に座る奴まで現れた。おい、おっさん男やぞ。

 みんなそんなになんか溜まってたのか。

 だがまあ……

 今日ぐらいはいいか。

 この個室は防音魔法がかけられているらしいし。

 好きなだけ食って、好きなだけ飲んで、好きなだけ騒げ。

 俺はそんなみんなの楽しそうな様をさかなに、エールをグッと飲み干した。


 ぷはぁああ……最高やな、これ。


 数時間後……

 みんな大満足で店を出る。
 俺は会計のために、店のレジに向かった。

 素に戻ったリンナが「ああぁ、あたしは皆のまえでぇ……」と頭を抱えていた。
 まあまあ、たまには素のリンナも見せていいと思うぞ。

 レジで会計を待つ俺に、リンナが言う。

 「そうだ、ボクレン。貴様、明日はエリクラス隊長の元へ行け」

 そして、請求額の記載された紙を受け取るおれ―――!?

 「おい、聞いてるのかボクレン。朝一で行けよ。隊長の呼び出しだからな」

 ああ、わかった。

 だが、そんなことよりも重大なことがある。


 高級そうな紙に記載されたこの数字……


 おっさんの特別ボーナス全部飛んだ。