おっさん聖騎士の無自覚無双。ド田舎の森で木刀振り続けていたら、なぜか聖女学園の最強聖騎士に推薦された。~普通の魔物を倒しているだけなのに、聖女のたまごたちが懐いてくるんだが~

 「ボクレンさん! 来てくれた……!」
 「ああ、待たせたなセシリア。あの黒服女が敵の親玉か?」
 「は、はい……元聖女で魔法に精通しています」

 「よくわからんが、敵なんだよな」
 「はい、聖女を攫うつもりです。聖騎士のみなさんを殺して」

 いきさつは知らんが、俺の使命はセシリアたち聖女を守ること。

 「ボクレンさん気を付けて、レクラは魔物を操ることができます」

 魔物使いってやつか。
 それに……いかにもヤバそうな黒い壁を身の回りに展開している。

 さしずめ魔物を操るすご腕魔法使いってとこか。
 これは強敵だな。

 「なんこの甲羅……魔法か……いや物体操作系に、こんなんないっしょ」

 俺がぶっ放した甲羅は、セシリアたちを取り囲んでいた魔物の一部をすりつぶして止まった。
 レクラはそれを見て目を細め―――そして、笑った。

 「ま、いっかぁ~~たった3人増えた程度で、どうってことないじゃん~しかもおっさんってうけるわ~
 それに後方から別の魔物たちがそろそろ押し寄せてくるからぁ~~やっぱあんたたちおわりだわぁ~」

 ケタケタと白い歯を見せる黒服の女。


 「こないぞ」


 「ああぁ?」

 「だから別の魔物は来ないと言っているんだ。俺とバレッサ、レイニで三等分してぜんぶ倒したからな」

 「くだらねぇウソこいてんじゃないよ。今すぐ呼び寄せて……なんこれ? あたいの指示が……届かない? 
 …………まじでおまえら3人でやりやがったのか」

 「そうだ」

 「ほぼ、先輩がやったすけどね」
 「そうですよぉ~ボクレンさん! サラッと三等分とか敵に誤情報を与えないでください! 私も強者認定されちゃうじゃないですかぁ!」

 「え? そう?」

 いやいや、俺たち3人で協力し合っただろう。
 細かい数字とか、どうでもいいやん。

 「そうですよぉ~~そんな感じのはボクレンさんだけの無自覚変態属性なんですぅ!」

 レイニが口を尖らせて食い下がる。
 なんだその属性……

 「ボクレンさん……魔力を練る時間を稼いで欲しいです」

 そこへセシリアがそっと耳打ちをしてきた。

 「なんだか色々つながったんです……それでやってみたいことがあります」

 その瞳はよどみない色で、もう迷ってはいなかった。

 そうか……なにかをつかめたんだな。

 よし、なら―――やるだけだ。

 「ああ、任せとけセシリア」

 俺は木刀を静かに抜きつつ、頷いた。

 バレッサとレイニも戦闘態勢だ。
 レクラとやらが片手をかかげる。

 「……ちっ。余裕こいてんじゃねぇわよ。木刀おっさんごときが、やっちまいなおまえら!」

 「ギュルルアアア!」
 「ゴッフゴッフゴッフ!」
 「グブブブバババ!」

 女のひと声で魔物たちの気配が変わり、こちらに向かってきた。
 なるほど、本当に魔物を操れるらしいな。


 「んじゃ、やりますか」


 「ぬんっ!」

 先頭の魔物に一撃―――

 パンッと頭部がはじけて、そのまま地にズーンと沈む。
 おっと、ちょっと力入れすぎたか。気合が入っている証拠だな。

 「さすが先輩っす」
 「ふはぁあ~~上位種の魔物なのにあっさり……何回見ても凄い」

 「……上位種をたった一撃って……なんそれ?」


 バレッサたちも魔物使いもなにを言ってるんだ?

 こいつら―――

 「おっさんのいた森にも普通にゴロゴロいるやつだぞ」

 これじゃ普段と何も変わらん。


 「ああ? なにいきってんだよおっさん。どうせ他の奴らは限界だしぃ~
 さあさあ全方位からの一斉攻撃だよぉお~~キャハハ~~くたばれ聖騎士どもぉ~~」

 「おい、誰がへばってんだ?」

 こいつは状況を把握できんのか?
 良く見ろよ。

 「はぁあああ――――――聖風剣舞(テンペストブレイド)!!」
 「いきますわよ! ――――――結界(セイクリッド・バリア)!!」

 リンナの放つ疾風の剣が魔物たちを蹴散らす。
 そしてアレシーナが光の壁を構築しはじめる。

 「ああぁ? あいつ死にかけてた女隊長じゃねぇか……それに心折れたですわ聖女まで……」

 「それだけじゃないぞ」

 「聖騎士隊ぃ! 死力を尽くせぇ! ――――――新人のおっさんに後れを取るなぁあ!」 
 「さ~~~あ、聖女のみなさ~~ん。おっさんだけに頼ってちゃ卒業できませんよぉ~」

 リンナとマシーカの激が飛ぶ。
 他の聖騎士たちも立ち上がって雄たけびをあげはじめる。
 聖女たちも各々やるべきことを行動に移し始めた。

 「な? 誰もへばってなんかいないだろ」

 「あんだよこれ……なんだよあの顔……こいつら全員、絶望に染まってただろうがぁ……」
 
 何言ってんだ。仮にも聖騎士と聖女だぞ。

 「そう簡単にはいかんだろ。人生なめちゃいかんぞ」

 「チッ……おまえがきてから、イライラしかないわぁ~~
 おっさんが希望とかぁ~~ぜんぜんわらえぇねぇよぉおお!」

 ……むっ!

 魔物の気配が俺に集中したな……

 「キャハっ! 選りすぐりの上位種プレゼントだよ~~♪ さっさと肉塊になりな!」

 「ギュラアアア!」
 「グルアァアアア!」

 四方八方から一斉に飛び掛かってくる魔物たち。
 影が何重にも重なり、俺の周囲だけ夜になったかのようだ。

 おおぉおお!

 これこれ! こうでないとな。
 久しぶりに森での日常を思い出すぜ。

 ―――よっしゃぁ!

 「ぬんっ!」「ぬんっ!」「ぬんっ!」「ぬんっ!」「ぬんっ!」

 至近距離で木刀の連打を浴びせていく俺。
 一刀浴びせるごとに、魔物がぐちゃっと折り重なって倒れていく。

 「キャハハ~~なにこの音~~おっさんグチャグチャになってんじゃん~~うけるわぁ~やっぱこうでないとねぇ~キャハハハ♪」

 魔物使いがなんか言ってるが、ちょっと魔物が積み上がりすぎで良く聞こえん……よっと!
 中央の固まりを強めに打つと、パーンと魔物の死骸が全方位に飛び散った。

 「よし、これで視界良好っと」

 「なんそれ……」

 にしても……
 いつも通りの素振り訓練だな、こりゃ。

 「ぐっ……なんなんだよ……こいつふざけんなよぉ……」

 ところでこの魔物使い、さっきからなにを驚いているんだ?

 あっ、そうか!

 わかった!

 「おい、さてはおまえ新人魔物使いだな!」

 だって、操る魔物がたいしたこと無いからな。
 おっさん聞いたことがある。
 魔物使いの力量は、その使役する魔物のレベルで推し量れると。

 操る数も普通。魔物の強さもたいしたことない。
 なんか出で立ちがすご腕っぽい感じだったから勘違いしていたが。

 つまり―――

 こいつはまだ初心者ってことだ。


 「ああぁ……? おっさんなに言ってんだぁ?」

 苛立ちを露わにした口調で、おまえらも行けっと指示を出すレクラ。

 彼女の傍にいた魔物数体が俺に飛び掛かるも……ぬんっ!
 パパパァーンっと俺の前で弾け散る。

 俺は魔物を殴りつつも前進。
 前進! 前進! 前進だ!

 「ひぃ……こ、こっちくんなよ!」

 自身を守る魔物がいなくなったのか、少しばかり焦りが見え始めるレクラ。

 「魔法技術はそこそこあるのかもしれんが……ぬんっ!」

 俺はレクラを囲んでいる黒い壁に、木刀を打ち込んでみた。

 「はあぁ? あたいの黒結界が木刀なんかで破れるわけないじゃ……!?」

 黒い壁にピキッという音が走る。

 やはりな。

 技術は高いのかもしれんが……魔法自体はたいしたことがない。

 俺は結界の裂け目に指を入れて、グッと力を入れた。

 バリッ―――

 ほらな、やはりおっさんでも剥がせる。


 「ひぃあああ! あ、あんだよこいつ! あたいの黒結界をたまごむくみたいにぃい……」


 並外れた魔法の才はあるのだろう。
 だが、全てがかるい。

 鍛錬不足だな。

 「もう諦めろ。魔物もあらかた片付いたし。勝ちの目はないぞ」

 「……あらかた片付いた? なら―――もっかい相手しなぁあ!!」

 レクラの周りに黒い模様が多数浮かび上がる。
 そこから出てきたのは、魔物だ。

 「ふぅ……ふぅ……あたいは瘴気から魔物を生み出せるんだ。何匹倒そうが、無駄なんだよぉ~~!」

 なるほど、これはすごい技だな。

 だが―――ぬんっ!

 魔法陣から出てきた瞬間にボコっ!

 「今度はこっちか、ほい!」
 「もう一丁っほれ!」
 「おっと手前の穴からよっと!」

 凄い魔法だが……魔物が出てくる場所が限定される。
 レクラの周り数個の黒い模様から魔物がでた瞬間に、ボコればいいのだ。

 これは、はっきりいって楽だな。

 「うわぁ……モグラ叩きみたいなことしちゃってる。さすが先輩っす」
 「ひやぁああ~~魔法陣から出た瞬間グシャしてるぅう~なにこの人ぉ~」

 お、バレッサにレイニか。
 どうやらここ以外の魔物は、完全に一掃されたようだな。

 「……クッ……はぁ……はぁ……」

 バンバン出てくる魔物を木刀で殴っていると、レクラの息が切れてきた。

 「あれ? なんか魔物が生まれるペースが落ちてるぞ」
 「先輩、たぶん魔力切れっすね」

 ああ、なるほど。

 それでレクラはきつそうなのか。


 「ああぁ……なに勝った気でいんだよ。勝負はこれ……から……ングっ」


 レクラが懐から取り出した瓶をグッと飲み干す。

 「グハッッ……ぐく…ふう……はぁ」

 「先輩、あれ魔力回復ポーションより全然ヤバそうなクスリっすよ」

 全身が痙攣しているレクラが、キヒヒと笑いを漏らした。


 「そうさぁ~あたいが作った魔力強制回復薬だからねぇ~寿命は縮むけどぉ~んなことどうでもいいわぁ! これで魔力は全回復さぁ!

 ――――――さあ、あたいの魔法陣の力をみせてやんよぉお!!」


 レクラの叫びと共に、黒い模様がズズズと地面に浮き上がり始める。

 「うわっ、先輩これ……と、とんでもないっす!」
 「はわぁあああ! こんな広範囲に魔法陣を数十個同時展開なんてぇ!」

 2人が騒ぐのも無理はない。
 たしかにこりゃ凄いな。黒い円が、いたるところに浮かんできたぞ。

 こりゃおっさんもお手上げだな。

 全部の魔法陣から魔物を出されちゃ、さすがに対応できん。

 だが……

 俺の袖を引っ張る小さな手。

 そう……俺はできなくても、出来る子が別にいる。

 「セシリア、準備はできたようだな」

 「はい、ボクレンさん!」

 「よし、じゃあ一発かましてやれ」


 「はい! こんどこそ……だれも死なせない!」


 俺の天使が、詠唱を開始した。