おっさん聖騎士の無自覚無双。ド田舎の森で木刀振り続けていたら、なぜか聖女学園の最強聖騎士に推薦された。~普通の魔物を倒しているだけなのに、聖女のたまごたちが懐いてくるんだが~

 「みなさん! ポーションはまだまだありますから!」

 息を吹き返した聖騎士のみなさん、そしてクラスメイトの聖女たち。

 「―――うらぁああ! 聖騎士隊、根性みせろぉおお!」

 リンナ副隊長を先頭に、迫りくる魔物を撃退する聖騎士のみなさん。
 アレシーナさんが【結界】を張っているから、魔物との戦いに集中することができる。
 そして他の聖女たちは―――

 「さ~~発生した瘴気を少しでも多く~~【浄化】しますよ~~」

 マシーカ先生の号令と共に、【浄化】の詠唱をはじめるみんな。
 そう、敵は瘴気を利用して無限に魔物を生み出している。だったらその元である瘴気を断てばいい。

 リンナさんたちが命を賭けて魔物を倒してくれているいまこそ、【浄化】を使う時です。

 わ、私も……

 「「「「「……この地を穢すものよ。聖なる光のもと、その罪を悔い改めよ」」」」」

 一斉にみんなの魔法陣が展開されます。
 ……っ、私の魔法陣も――――――展開できてます! 集中、集中です!

 やっぱり、さっきの演習でなにかきっかけを掴んだのかも!

 ―――あ!!

 喜んだのも束の間、私の魔法陣は完全形成される前に散ってしまった。
 しまった……調子に乗って焦りすぎました。

 ……もう一度、魔力を注入するタイミングを変えれば……

 が、二度目のチャレンジの前に異変が起こる。


 「「「「「……光よ……どうか、この地の穢れを祓いたまえ―――
 ――――――浄……(ピュリフィ……)!?」」」」」」


 ……これは!?

 みんなの魔法陣が……発動していない!

 「ウソ……魔法陣が光らない!」
 「なにこれ、どうして!」

 私の目に飛び込んできたのは―――

 黒い魔法陣。

 みんなの【浄化】の魔法陣の上に、まるで塗りつぶすように重なっている……!?

 な、なんですか! あれ!!

 「おっそ~い、クソのろい魔法陣展開してんじゃないわよぉ!」

 これって……ずっと魔法陣に苦戦してきたから、ずっと頭の中では完成していたから、一目で違いがわかる。これ……【浄化】の魔法陣じゃなくなってる。

 「まさか……」

 「へぇ~~ポーションちびせいじょは気付いたのかしらぁ~」

 「くっ……誰がチビ聖女ですか! もしかして……書き換えたんですか」

 「キャハハ~~ピンポンピンポン~せ~~かい~。そうさ、あたいの魔法陣に書き換えてやったんだよぉ~相変わらずの才能なしのノロマたちねぇ~キャハハ~~」

 魔法陣を書き換えるなんて……どんな高等技術なんですか。
 でも、おかしいです。

 「あり得ないですわ!」

 そこへアレシーナさんが鋭い声をあげる。

 「たとえ書き換えが可能だとしても、【浄化】は聖女独自の魔法ですわ。魔法陣の仕組みがわからなければ、そもそも書き換えなどできるはずがないですわ!」

 そう、アレシーナさんの言う通りです。
 聖女が使う魔法陣は、聖属性魔力をもつ者にしか発動できない。つまり、聖女以外の人間は、そもそも魔法陣の仕組みがわからないのだから。

 それなのに―――この女性の顔が、それを否定している。

 この人……知ってるんだ。

 でも、どうやって。

 「ンフフ~~ですわ聖女ちゃん、あんたら凡人と違って~~あたいに「あり得ない」とかないから~~
 ――――――はぁ~~い、ふたたびのマッジクショーた~~いむ♪」

 アレシーナさんの足元に、黒い魔法陣が現れた瞬間―――

 「―――な、なんですって!?」

 「あ~~らぁフシギぃ~【結界】きえちゃったわねぇ~キャハハ~~」

 一瞬にして、アレシーナさんの【結界】がバラバラに砕け散った。
 これって、衝撃を受けて破壊されたとかじゃない。

 アレシーナさんの魔法陣を書き換えたんだ……。

 「そ、そんな……ありえませんわ」

 「キャハハ~きたきたきたぁ~~その顔ぉおお! さいっこうじゃない! ねえ、いまどんな気分んん? ねぇねぇねぇったら~~~キャハハハハ!」

 「……さ、最低です」

 私の口から言葉がこぼれた。
 歪んでいる。この人になにがあったのかしらないけど、なにか感情がおかしい。

 「ああぁ? チビ聖女、なんかいったかい? あんたら能無し聖女どもが、あたいをそんな気分で追い出したんだろうがぁあ!」

 追い出した? どういうことですか?

 「負けませんわ! 聖女たるもの、絶対にあきらめませんの!」

 アレシーナさんが再び【結界】の魔法陣を構築する。
 綺麗で正確かつ、早いです! さすがアレシーナさ……!?

 「キャハハ~~【結界】だってさぁ~~他人なんか守ってどうするんだよ、の・ろ・ま!」

 黒い魔法陣が瞬く間に、アレシーナさんの魔法陣を塗り替えていく。

 なんですかこれ……いくらなんでも速すぎます……

 「あなたは……いったい何者なんですか」

 「キャハッ、気になる? 気になっちゃう~? なんで聖女だけが使える魔法陣を書き換えられるのか? 構築のタイミングからなにからなにまで熟知してるのか?……教えてあげよっか?」

 ゾクっと悪寒が走る。
 ニヤケ顔の奥に、凄まじいうらみを秘めたような声で彼女は言った。

 「―――あたいもね、聖女だったからさ」

 ……え? 

 いまなんて?

 「そうさ、あたいは元聖女なのさぁ……
 ――――――虫唾が走るぅう~クソ聖女さまだったんだよぉおお!」

 「元聖女なら……なんでこんなことを」
 「そうですわ、仮にも聖女だったのならば、このような蛮行はおやめなさい!」

 「ああぁ? 聖女だったからあんだって?」

 黒い感情が噴き出したかのような、キツイ視線。

 「あんたたちのような、脳内花畑のデキソコナイ聖女どもが……
 ――――――あたいの才能に嫉妬して、学園から追い出したんだろうがぁああ!!」

 追い出したって……どういことですか?

 「あなた……まさか、レクラさんですか?」

 マシーカ先生の声が、わずかに震えた。
 その声音には驚きと迷いが滲んでいるのか、普段の口調ではない。

 「ああぁ? なんであたいの名前を……ああ、おばさん聖女なら知ってるかもねぇ」

 「……あの学園始まって以来の天才少女……レクラですか」

 「へぇ~久々に聞いたわその言葉。天才ねぇ~~あたいが聖属性魔力を失ったら速攻でポイしたくせにねぇ~」

 「聖属性魔力が失われる……そんなこと」
 「ええ、レクラは在学中に聖属性魔力を失ったのです」

 そんなことがあり得るんだ……

 「だから、学園から出たのですか……?」
 「違います。レクラは禁忌の魔法を研究していたのです」
 「禁忌の魔法……」

 「彼女は瘴気を操る魔法を研究していたのです」

 瘴気を操る……使い方によって善にも悪にもなりえる魔法……。

 「ああぁ? なにが禁忌だよぉ人類にとって最高の魔法だろうが!」
 「ですがあなたは実験と称して王都内で魔物を生み出し、多数の人を殺めてしまっています!」

 マシーカ先生の語気が荒ぶる。

 「はあぁああ? これだからクソ学園のカタブツどもは、はぁ……変わんないねぇ~~
 そんなもん些末な事なのよぉ~~未来の多数のためなら、数人死んでもどうでもいいじゃん♪ こんな簡単な事もわかんないんだぁ~~やっぱアホのあつまりなんだねぇ」

 「なにを言ってんるんですか……あなたは」

 どうでもいい命がある?

 そんなこと―――

 「あなたは間違っています!」

 「キャハハ~~、チビ聖女ちゃん、なに熱くなってんのぉ~~マジうけるんだけどぉ~
 てかさぁ~~頭でっかちのあんたなら、もうわかってるよねぇ~あたしとあんたたちの根本的な才能の違いがさぁ」

 このレクラという人、とんでもない魔法技術を持っている。
 さらにそれを支える魔力もけた違い。

 普通に考えたら、まったくかなわない。

 だけど……

 「この人に負けるわけにはいきません!」
 「そうですわ! 聖女たるもの、命の重みを数ではかるべきではないですわ!」

 声に想いを乗せて叫ぶと、アレシーナさんが力強く私の隣に立った。
 その瞳は揺らがず、真っ直ぐに前を見据えている。

 私とアレシーナさんの心が、ひとつに重なった気がした。