おっさん聖騎士の無自覚無双。ド田舎の森で木刀振り続けていたら、なぜか聖女学園の最強聖騎士に推薦された。~普通の魔物を倒しているだけなのに、聖女のたまごたちが懐いてくるんだが~

 では次はバレッサの二重攻撃だな。

 えっと……こんなかんじ……か?

 「ぬんっ! ぬんっ!」「ぬんっ! ぬんっ!」

 ドサドサっと魔物が地面に沈む。

 う~~ん、なんか続けざまに打ち込んでる感が否めないな。
 もっちょっと素早く―――

 「ぬぬんっ!」「ぬぬんっ!」「ぬぬんっ!」

 おおっ!

 魔物たちが、ほぼ同時に倒れていくぞ。
 コツを掴んだかもしれん、おっさん。

 「どうだバレッサ、俺も二重攻撃出来たかもしれん」
 「いやいや先輩……二重って言うか三重、四重以上……もう多重すぎっす」

 むう……バレッサからは渋い反応が返ってきた。

 「そっか……ムズイな加護…」

 「「いや、真似する必要性ゼロです!」っす!」

 レイニとバレッサが一斉に声を揃える。

 「ギャルウウウウ!」
 「ギュアララア!」

 しゃ~ない、おっさんは大人しく木刀振っとくか。

 といった具合に、俺は無心で木刀を振り続けた。
 魔物から押し寄せてくれるので、ぶっちゃけ楽だ。

 にしても……久しぶりに、故郷の魔の森を思い出すな。

 朝練で木刀振りつつ、寄ってきた魔物をバシバシたたく。
 やたら底の深い洞窟に行った時も、木刀振りつつ魔物をバンバン打ち据えていく。
 夜は夜で、闇のなか気配のみで襲ってくる魔物をブンブン木刀でなぐる。

 それが俺の日常で、そうしておっさんにまでなってしまった。

 学園聖騎士に赴任したての頃は、日常がガラッと変わってなんとなくムズムズしたもんだ。
 なにせ学園は魔物が出ないからな。当り前だけど。


 などと思い出に浸りながらも、木刀振ること数分後……

 「よし、俺の方は片付いたぞ」
 「くっ……先輩、あと80匹ほど残ってるっす」

 バレッサが弓を放ちながら、汗をにじませる。
 通常の一本撃ちに戻っている。やはり、二重撃ちにはまだ慣れていないし負担も大きいのだろう。

 「わたしは3匹……です……ぜぇ~はぁ~ぜぇ~はぁ~」
 「おお、もうほとんど倒したのか。やるなレイニ!」

 「違いますぅう! 3匹倒しましたぁああああ!」

 「お……おう」
 「だってだって、わたし斥候特化の加護なんですぅ。こんな四方八方囲まれてるの想定外なんですぅう!」

 てことはレイニの方はあと97匹残っているってことか。

 「よし、2人とも良く頑張ったな」

 とりあえずレイニの加勢をした。なんか女子としていろいろヤバイ顔になってたし。
 それが終わると次はバレッサの方へ。

 「これであらかた片付いたな」

 「ふぅ~~先輩いてくれて助かったっす」
 「ふはぁああ……信じられないけどぉ~生き残ってるぅう……上位種の魔物だらけだったのにぃ……ボクレンさんが異常で助かったぁ」

 俺が異常っていうか、おそらく彼女たちはザコに全力を出しすぎたな。
 俺たちが倒した魔物は上位種とやらではない。なぜなら、おっさんが森で毎日相手していたやつらだからな。俺ですら余裕な魔物なんだ。
 そして、2人の使った【加護】は、そうとう身体への負荷が高い。疲弊しきった彼女たちを見ればわかる。

 敵の力量を見極め、力加減を見誤らないこと―――
 これは口で言っても習得はできない。実戦あるのみだからな。
 若い彼女たちにはまだまだ未来がある。今後学んでいけばいいことだ。

 「さて、俺たちも本隊を追いかけるか」
 「そうっすね。魔物がここにだけ出現しているとは限らないっす」

 「ああ、少し離れた場所から魔物の気配を感じるな……」

 セシリアたち本隊が移動した先だ。

 「あ……だったら、わたしが―――ハァっ!」

 あっという間に近くの大木を登って行くレイニ。
 すごいな、そういえば魚とったときも木の上にいたんだっけか。

 しばらくして降りてきたレイニによると。
 前方数キロ先で、本隊と魔物が交戦中のようだ。

 「隊全体が足止めされているみたいですぅ」

 「先輩、うち漏らしの逃げた魔物たちも本隊の方へ向かっていくっす」

 その魔物を殴りながら、本隊に追いついてもいいが―――

 「お! これはいいもの見つけたぞ」

 俺の視線の先に見えた、黒い鉛のような塊。

 「あれってボクレンさんが討伐したアダマンタートルの甲羅……」

 そうだ、こいつを使おう。

 「バレッサ、レイニちょっと後ろへ下がってろ」

 「おお、先輩こんどは何する気っすか」
 「ふぁああ……まだなんかやるんですかぁああ……」

 甲羅をひらけた場所に持ってきてと。

 セシリアたちが進んだ道へ身体をむける。
 よしよし、やはりこの線上がいちばん魔物の気配が多い。

 俺は木刀を腰から抜いて、すぅ~~っと息を整える。


 「方向良し! 角度よし! 振りかぶってぇ―――
 ―――――――――ぬうんんんんっ!!」


 ばっっつこぉぉぉぉん!

 という快音とともに、甲羅が勢いよく弾き飛ばされる。

 高速弾丸甲羅ライナーがビュンビュン音を立てて飛ぶ。
 線上にいた魔物たちが、パンっ! パンっ! パンっ! と風船が割れるかのようにはじけとんでいく。

 「うわぁあ~~アダマンタイトの弾丸とか、絶対当たっちゃダメなやつっす」
 「ひぃいいい、なにこれぇ……現実ぅ?  夢ぇ? もうやだぁ、心臓もたないぃいい」


 「よし、俺たちも甲羅の後に続くぞ」


 セシリア待ってろよ、おっさんすぐに行くからな。