好きになろう好きになろうと、そればかり考えながら日にちだけが過ぎていく。
焦っても気持ちが変わるわけではないが、焦らないというのも無理な話だった。
毎日会っている親友が、どんどんやつれていくのだから。
「んー? 手紙?」
朝、靴箱の前で蒼井が靴ではないものを手にして見つめていた。
可愛らしい薄桃色の封筒。
おそらく女子からのものであろうそれは、通常ならば自分宛でなくても心が躍るものだ。
しかし、今の日向は「良かったな」とか「揶揄ってやろう」とかいう気持ちが湧いてこない。
それでも何も言わないのは不自然だと思い、いつも通り振る舞おうとする。
「なになに? ラブレター? ラブレターじゃね?」
胸が嫌な音を立てているのを知られたくなかった。
「んー……そうかもな」
日向の心の内など知らない蒼井は、あまり興味なさそうに手紙をサブバッグに入れてしまう。
内容が気になって仕方がないが、とても見せてくれる雰囲気ではない。
「なんだよー! もっと嬉しそうにしたり自慢したりしろよ!」
「お前なぁ。それ本気で言ってるか?」
おどけた調子で蒼井の肩に腕を回して唇を尖らせると、険しい視線が突き刺さる。
蒼井の好きな相手も、そのせいで病気になっていることも知っているのに。今までと同じように振る舞いすぎた。
無神経だったと反省して、目線を落とす。
「……ごめん」
「好きなやつからじゃなきゃ、なんも嬉しくねぇし」
「だよな……うん」
完全に機嫌を損ねてしまったらしい。
日向が上靴を履くのを待たずに靴箱から離れていってしまう。
それでも、上靴の踵を踏んだままパタパタと音を立てて隣に並ぶと視線をくれた。
「えと、あの……中身が気になるので……俺にも見せて、くださぃ……」
後ろめたい気持ちや申し訳なさで尻すぼみになっていく声に、蒼井の表情がフッと緩む。
「お前、ほんと俺のこういうの見たがるよなぁ。ダメっていつも言ってんだろ」
いつも日向には甘い蒼井だったが、ラブレターだけは見せてくれたことがない。
勇気を出して書いた手紙が他の人間に読まれたらどんな気持ちになるか考えてみろと、中学の頃からいつも口を酸っぱくして言われていた。
変わらない返事を聞いて、日向は安心する。
そして、本当に手紙を見たかったかのように頬を膨らませた。
「も、貰ったことねぇんだから気になって当たり前だろ! モテる蒼井には分かんねぇかもだけど!」
「彼女は何人も出来てたろ」
「ラブレターは貰ってねぇもん」
しかも、みんな二週間くらいで別れてしまった。
告白したことも、されたこともある。
口頭の時もあったし、連絡用アプリのメッセージの時もあった。
ちゃんと好きだったつもりだが、どうも日向は恋人と長続きしない質だった。
原因は恋人との時間も蒼井といる時間も欲しがったから。
それは恋人たちにとって、理解できないことだったらしい。
「今日は蒼井と帰る」
という日が二日も続けば、
「付き合ったばっかでそれはない」
と、フラれてしまった。
日向は年相応に異性に興味があったし、恋人も欲しかったし、彼女たちを大事にしたかったが。
蒼井といつも通り一緒にいられないのはつまらなかった。
「お前といるのが、一番楽しいんだよな」
「すげぇ殺し文句」
隣を歩く青白い顔が僅かに朱に染まる。
自分の一挙一動が蒼井に大きく影響すると思うと、そんな場合ではないと思うのに心が躍る。
日向は隣の学ランの裾を摘んで引いた。
「あ、あのさ」
「ん?」
「今日も、一緒に帰れるか?」
「当たり前だろ」
そう頷く蒼井の微笑み一つで自分が舞い上がるのは何故なのか。
日向は薄々勘付いていたが、上手く言葉にならないまま飲み込んだ。
焦っても気持ちが変わるわけではないが、焦らないというのも無理な話だった。
毎日会っている親友が、どんどんやつれていくのだから。
「んー? 手紙?」
朝、靴箱の前で蒼井が靴ではないものを手にして見つめていた。
可愛らしい薄桃色の封筒。
おそらく女子からのものであろうそれは、通常ならば自分宛でなくても心が躍るものだ。
しかし、今の日向は「良かったな」とか「揶揄ってやろう」とかいう気持ちが湧いてこない。
それでも何も言わないのは不自然だと思い、いつも通り振る舞おうとする。
「なになに? ラブレター? ラブレターじゃね?」
胸が嫌な音を立てているのを知られたくなかった。
「んー……そうかもな」
日向の心の内など知らない蒼井は、あまり興味なさそうに手紙をサブバッグに入れてしまう。
内容が気になって仕方がないが、とても見せてくれる雰囲気ではない。
「なんだよー! もっと嬉しそうにしたり自慢したりしろよ!」
「お前なぁ。それ本気で言ってるか?」
おどけた調子で蒼井の肩に腕を回して唇を尖らせると、険しい視線が突き刺さる。
蒼井の好きな相手も、そのせいで病気になっていることも知っているのに。今までと同じように振る舞いすぎた。
無神経だったと反省して、目線を落とす。
「……ごめん」
「好きなやつからじゃなきゃ、なんも嬉しくねぇし」
「だよな……うん」
完全に機嫌を損ねてしまったらしい。
日向が上靴を履くのを待たずに靴箱から離れていってしまう。
それでも、上靴の踵を踏んだままパタパタと音を立てて隣に並ぶと視線をくれた。
「えと、あの……中身が気になるので……俺にも見せて、くださぃ……」
後ろめたい気持ちや申し訳なさで尻すぼみになっていく声に、蒼井の表情がフッと緩む。
「お前、ほんと俺のこういうの見たがるよなぁ。ダメっていつも言ってんだろ」
いつも日向には甘い蒼井だったが、ラブレターだけは見せてくれたことがない。
勇気を出して書いた手紙が他の人間に読まれたらどんな気持ちになるか考えてみろと、中学の頃からいつも口を酸っぱくして言われていた。
変わらない返事を聞いて、日向は安心する。
そして、本当に手紙を見たかったかのように頬を膨らませた。
「も、貰ったことねぇんだから気になって当たり前だろ! モテる蒼井には分かんねぇかもだけど!」
「彼女は何人も出来てたろ」
「ラブレターは貰ってねぇもん」
しかも、みんな二週間くらいで別れてしまった。
告白したことも、されたこともある。
口頭の時もあったし、連絡用アプリのメッセージの時もあった。
ちゃんと好きだったつもりだが、どうも日向は恋人と長続きしない質だった。
原因は恋人との時間も蒼井といる時間も欲しがったから。
それは恋人たちにとって、理解できないことだったらしい。
「今日は蒼井と帰る」
という日が二日も続けば、
「付き合ったばっかでそれはない」
と、フラれてしまった。
日向は年相応に異性に興味があったし、恋人も欲しかったし、彼女たちを大事にしたかったが。
蒼井といつも通り一緒にいられないのはつまらなかった。
「お前といるのが、一番楽しいんだよな」
「すげぇ殺し文句」
隣を歩く青白い顔が僅かに朱に染まる。
自分の一挙一動が蒼井に大きく影響すると思うと、そんな場合ではないと思うのに心が躍る。
日向は隣の学ランの裾を摘んで引いた。
「あ、あのさ」
「ん?」
「今日も、一緒に帰れるか?」
「当たり前だろ」
そう頷く蒼井の微笑み一つで自分が舞い上がるのは何故なのか。
日向は薄々勘付いていたが、上手く言葉にならないまま飲み込んだ。



