学校に戻ってきた渋谷さんは、瞬く間に教室の雰囲気に馴染んだ。
 明るく気さくな彼女は元々クラスの中心にいたから、事故の前の日常に戻っただけとも言える。事故なんて最初からなかったかのように、すべてが元通りだ。まだ怪我の名残を留めている渋谷さんの足以外、全部。

 この平穏な日々の中で、僕自身もきちんと顔を上げて周囲を直視できている。
 そういう嬉しさを覚えるたび、僕の生き方をまるごと変えてくれたに等しい清永への友情を、僕は深く噛み締める。

 同時に、不安も強くなる。

 家を出てひとり歩きながら、暑いな、と思う。
 再来週から夏休みが始まる。夏休み中は塾に通う予定だ。進路はおおよそ決まっていて、ただ、近頃は清永がどうするのか気に懸かっている。

 清永と進路の話をしたことは、実は一度もない。どこに進学する気なんだろうと想像しては、別れって案外すぐに訪れてしまうのかも、と落ち込みそうになる。
 夏休みが終われば、高校生活もいよいよ折り返しだ。残りの一年半なんて、きっとあっという間に終わる。ずっと一緒にはいられないことくらい分かっているつもりなのに、思っていた以上に心細くなる。

 たぶん、清永が僕の初めての親友だからだ。