器用に動く松葉杖をじっと見つめた後、僕は清永の顔へと視線を動かしていく。
 清永も渋谷さんを、というより彼女の松葉杖を見ていた。おそらくは怪我が完治していない足元を。

 唐突に、清永の手首がくにゃりと歪んで見えた。
 周囲に人がいるのに。

「……っ、おい!」

 ぞわりと肌が粟立つ中、僕は咄嗟に彼の手首を掴んだ。
 めいっぱい握ってしまっている気しかしない。加減が狂っていると分かっていても、少しも指の力を緩められなかった。

 これ(・・)はおかしい。おかしいけれど、これ(・・)がなんなのか僕には確証がない。本当は僕だってこんなモノは嘘だと、ただの勘違いだと、思えるものならそう思いたい。
 清永はこれ(・・)を隠したがっているはずだ。だから、僕が気づいていることは清永には悟られないようにと努めてきたし、僕からはなにも訊かずにいる。

 だが今、僕は清永の輪郭の歪みを――手首を、直に掴んでしまった。
 そこに異変が生じていると、さも指摘しているかのように。

「清永」

 どくどくと心臓が跳ねる。
 うまくごまかさなければならない。僕は清永の異変には気づいていないと、手首を掴んだのはそこが輪郭を歪めたからではなくたまたまなのだと、そう思ってもらえるように、早く。