和やかに話している。ふたりとも笑っている。
 それなのに、どうしてだろう。武田と中野の誘いを断れなかったときに助け舟を出してもらった、あの日の清永と重なる。

 清永の微笑みが、不快感を包んで隠すためだけのそれに見えてしまう。

「てか清永くんってくぜっちと仲良かったんだ? え、ウチが休んでる間にってこと? その前から?」
「そうだね、最近結構話してる。ねぇ葉月?」
「あ……う、うん」

 急に話を振られ、声が裏返りそうになる。
 武田や中野とは違い、渋谷さんには僕を下に見ている感じも、ましてや敵意もない。清永だけがわずかに――本当にわずかにピリピリしている。

 渋谷さんは気づいていない。
 もっと言うなら、たぶん僕以外は気づかない。

「え、くぜっちって下の名前そんななんだ? めっちゃ(みやび)じゃん」
「い、いや。ただ八月生まれだからってだけ……」

 いろいろ考えながらの慣れない会話の返事は、どうしてもしどろもどろになる。
 そのとき、渋谷さんを呼ぶ彼女の友達の声が聞こえてきた。「今行く~!」と声を張り上げた渋谷さんは、それきり「んじゃ!」と去っていった。