ここ教室だぞ、と咎めかけた口を慌てて噤んだ。
 一生懸命にそんな注意をするほうが、ふたりだけの秘密を自ら(あら)わにしているようで、気恥ずかしくなったからだ。

「俺も手伝うよ、それ」
「あ……日直の仕事だし、別にこれくらいは」

 声をかけてきた清永は朗らかに笑っている。けれど、妙な違和感があった。
 渋谷さんと話しているところに割り込まれた、そういうタイミングだったからかもしれない。

「あ、清永くん!」
「ども。退院おめでと、渋谷さん」
「ありがと! 今回はマジ終わった~って思ったよね、顔から地面に突っ込んじゃったしさぁ」
「痛そう……心配してたんだよ。顔、綺麗に治って良かったね」
「ちょ待、イケメン急に笑うなし照れる、あと綺麗とか言うなし!」

 渋谷さんの口がマシンガンじみた速度で動く。
 ふたりの会話を、僕は空気になったような気持ちで見守っていた。少し懐かしい感覚だ。ただそれよりもやはり、清永がまとう微かな違和感に気を取られる。

「足も早く治るといいねぇ」

 言いながら、清永が渋谷さんに笑いかける。