「くぜっち! はいこれ、ウチら三人分!」

 松葉杖を器用に操りながらノートを手渡してきたのは、渋谷さんだった。
 彼女と同じグループの女子たちのノートを、まとめて持ってきてくれたらしい……いや、それよりも。

 くぜっち、と呆然と鸚鵡返しする。
 あの清永でさえ下の名前で呼んでくるくらいで、クラスの人からあだ名をつけられるなんて初めてだ。その場のノリで、しかも一瞬でつけてしまえるものなんだ、と謎の感動を覚える。

 渋谷さんとはクラスが同じだけで接点がほぼないから、一対一で話す機会なんて今後もないと思っていた。
 早く返事をしないと、と緊張しながら口を開く。

「あ、うん。ありがとう」
「よろしく! ねえ、ウチが休んでる間さぁ」

 四十冊近いノートの束を、追加の三冊を含めてとんとんと揃え直している間、渋谷さんが畳みかけるようにして続ける。

「くぜっちが変な悪口から庇ってくれたって聞いたよ。ありがと」
「……え?」

 なんの話かすぐには分からず、手元が固まった。
 ぽかんと渋谷さんの顔を見つめ、ああ、言われてみれば思い当たる節はあるかも、とぼんやり思い返す。