『気にしないで』

 清永の言葉が、頭の中を激しく暴れ回る。
 なぁ清永、今のそれ(・・)って本当になんなの、と訊きたくてたまらなくなる。でも訊けるわけがない。そんなこと。

「清永。僕は、」

 考えがまとまらないうちに口が開いた。
 ただ、それ以上言葉が続かない。喉が渇いて張りついて、ぴりりと鋭い痛みを訴えてくる。

 もし清永が本当に人間でなかったら、僕はどうすればいいんだろう。
 いや、仮にそうだとしても別に構わない気もする。だって清永だけだ。僕を俯きっぱなしの世界から引き上げてくれたのは。僕を、普通にしてくれたのは。

 ――でも。

 こうして言葉に詰まってしまうのは、迷っているからだ。
 迷いが抜けないから、僕は清永の正体について清永に尋ねられないままだし、僕にとって清永がいかに特別な存在なのかを本人に伝えることもできない。

 結局、僕はそれきり口を噤んだ。
 清永の目を見ることも、もうできそうになかった。