「っ、おい!」

 迫りくる清永の手首目がけて、僕はたまらず声を荒らげた。
 ぐにゃぐにゃと揺らいで見えていた清永の手首が、元の人間らしい形に戻ったのは、その直後だ。

 息が乱れる。目はまだ見られない。
 腕の輪郭だけ人のそれだと確認して安堵したところでどうしようもないのに、僕はまだ顔を上げられない。

 前を、向けない。

「あれ、……俺、今」

 視線が合わないまま呟いた清永に、すぐにはなにも返せない。
 相槌くらい挟んだほうがいい気がしたのに、なにも言えなかった。手首から目を逸らすこともできない。

 そうこうしているうち、清永が「あは」と軽やかな笑い声をあげた。

「ごめんな、なんか変な話になっちゃった。気にしないで」

 告げられるや否や、僕は意を決して顔を上向けた。
 笑う清永と目が合う。彼の輪郭は手首ごと元に戻っていた。いや、今日は手首以外歪んでいなかったのかもしれない。手首しか見ていなかったから確認できなかった。

 清永はいつもこうだ。
 僕が清永を直視できずにいるごくわずかな時間で、崩れた形を元通りにする。僕が見間違えたのかも、と僕に信じ込ませようとしてくる。それなのに。