友達になった人気者が、人間じゃなかった話

「ごめんね? 借りるって言ったけど、もう俺のになっちゃってるっぽい」
「待ってくれ。意味が、よく、」
「でもいいよな、別に。こんなの要らないって言ってたもんな、葉月」

 あは、と笑った清永は、三日月形の目をさらに細めて笑う。
 それきり、清永はまるごと関心を失ったかのように橋脚から目を逸らし、正面に向き直った。僕はといえば、清永とは逆に、眼下の鯉たちから目が離せなくなる。
 清永がどの鯉に死の予兆を視たのか、数いる鯉のうちのどれがその対象なのか、僕には少しも分からなかった。

 清永の顔も、橋下の鯉の群れも、しまいにはどちらも見ていられなくなる。
 固まったきり足を動かせなくなった僕に気づいたらしい。間を置かず、清永が隣から僕の顔をぐっと覗き込んでくる。

「葉月さ。また余計なこと考えてるだろ」
「……別に」
「嘘だ。目、すごい泳いでる」

 笑う清永と目が合ってしまった。少し寂しそうな笑みに見え、僕はまた視線を伏せるしかなくなる。
 今、僕らの周囲には人影がなかった。僕らと同じく部活をしていない生徒が何人か、同じ道を通って帰路に就いていた気がするのに、誰もいない。車通りも妙に少ない。たまたまとはいえ心細くなる。