翌日。
 朝のホームルームで、来週から渋谷さんが学校に復帰するという話を聞いた。

 あの事故の噂なんて、もう誰も吹聴していない。武田と中野も、あの一件以来、他人をネタにした話を以前より自重している様子だ。

 あれから、武田たちは僕に声をかけてこなくなった。
 無視というよりは、気まずくて避けている印象を受ける。苦虫を噛み潰したような顔をしているからだ。僕と清永が一緒にいるときは、なおさら分かりやすくそれを態度に滲ませている。

 普通の皮を被るために固執していたふたりから離れた今、僕の心は前よりも軽い。
 普通じゃないと駄目なのか、と清永に真っ向から訊かれたおかげかもしれない。今の僕には普通ではないモノはもう残っていないけれど、仮に残っていたとして、以前ほどの息苦しさは感じずに済んでいたのではと思う。

 清永は、僕を新しい世界に引っ張り出してくれた、大切な友達だ。

「ああ、そういえばさ」

 放課後、下校中。
 橋の先の交差点まで一緒に帰る途中で、清永が思い出したように喋り出した。