注意不足とかうっかりとか、そういう言葉で済まされる次元ではすでになかった。
 ふとした折に、もしかしてわざと僕に見せているのでは、と疑ってしまいそうにすらなる。

「僕は下の名前でとか呼ばないからな、あんたのこと」
「えー。残念すぎ」

 ちょうどそのとき、ケラケラと笑う清永の声と予鈴が重なった。
 人間ではないかもしれない清永の、僕しか知らないいびつな姿が、今の正しい輪郭に重なって清永そのものをブレさせる。
 錯覚だと分かっていても、常識の外にあるだろう清永のおかしな一面に、気を抜くとすぐさま引きずり込まれそうになる。

「そろそろ教室戻るか」
「うん、次は英語かぁ~頑張ろ!」

 ガッツポーズをしてみせた清永に、唇を緩めながら頷き返した。
 清永が垣間見せる異常について、僕は、まだ気づいていないふりをしている。