渋谷さんのお見舞いに行った、という清永の話が、ほぼ同時に脳裏を過った。

『あの子の首から上、普通にあった』

 あの話をしたとき、清永は、渋谷さんの顔がまだ腫れていたことや、骨折していたことにも触れた。
 渋谷さんの容態について、真面目に、そして心配そうに話していた。僕も渋谷さんを心配しているという前提で喋っていた気もする。

 でも、武田と中野は違う。
 このふたりはあの事故をネタにしている。そういう調子で話を進めたがっている。

 今思えば、事故があった朝もそうだった。
 窓側の一番後ろのこの席で、武田は事故のことを興奮気味に、もっと言うなら面白おかしく喋り散らかしていた。

「渋谷ってすっぴんで病院いんのかな」
「いやガチ化粧してそうじゃね?」
「マジか~、あれのすっぴんとかもはや別人な気がする」
「はは、かもな~ウケる」

 ……なんだよ、ウケるって。
 危うく死にかけた怪我人相手に。

 ちり、と喉の奥がひりつく。
 こいつらはいつもそうだ。常に誰かを笑って生きている。毎日毎日、誰かの話題を、自分たちが楽しむために消費している。
 事故に遭って苦しんでいるクラスメイトの陰口なんて、普通は叩かない。しかも渋谷さんはまだ学校にも復帰できていないのに、無神経だ。