「う、うん。そうだな」

 珍しくしっかりと僕に視線を向けてくるふたりへ、勢いに押されるまま返事をする。
 そうしながらも、ふたりが清永を指すときに使う『ああいう奴』という言葉が妙に引っかかっていた。清永を指しているはずなのに、的外れな気がしてならない。

 些細だったその引っかかりは、見る間に大きく膨らんでいく。

「お前、渋谷が事故った日も教室出てどっか行っただろ。心配だよ正直」

 空気がぴりりと不穏に震える。
 今度の武田のひと言は、少し言葉尻が強かった。

 心配、と心の中で反芻する。
 武田は、自分の立場を悪くせず、相手に罪悪感を抱かせるような言葉選びを好む。例えば今は、あのとき勝手に話を中断して席を外したことを、僕に謝らせたがっている。

「ごめん、あのときは心配かけて」
「いや全然。気にすんなって」

 武田の口角が満足げに持ち上がるさまを確認し、ほっとした。
 けれどそれから間を置かず、話は妙な方向へ向かい始める。

「つーか渋谷ってまだ入院してんのかな。顔ヤバかったらしいけど」
「あ~、なんか最近あんまり話題になんないよな」

 笑い交じりに話題を変えた武田と、それに合わせて口調を軽くした中野、どこか(あざけ)りの滲むふたりの声が耳に届いた瞬間、ぴくりと指が震える。