渡り廊下をすり抜けていく風は生ぬるく、お世辞にも心地好いとは言えない。
 六月の中旬、空はどんよりとした分厚い雲に覆われている。ここ数日はずっと似たような空模様だ。梅雨の時期特有の湿った空気が、半袖の腕をじっとりと包み込んでくる。

 渋谷さんが無事かどうかは分からない。いや、どう考えても無事ではない。事実、彼女は救急車で運ばれるほどの大怪我をしている。

 僕に分かるのは、渋谷さんの命に別状がない(・・・・・・・)ことのみ。

 僕には、もうすぐ死ぬ人間が分かる。
 死の数日前から、彼らの姿は僕の目に〝首なし人間〟になって映る。

 首の断面から中身が出ているとか、血が噴き出しているとか、そういうグロテスクさはない。ただ、本当に〝最初からそうです〟とばかりに、首から上が綺麗さっぱりなくなって見えるだけだ。

 今朝、青信号に切り替わってすぐ横断歩道を駆け抜けようとした渋谷さんには、首から上がきちんとあった。
 いつも通りの濃いめの化粧も、校則的には完全にアウトだろうピアスも巻き髪も、全部はっきり見えた。

 だから死なない――なんて、誰にも言えるわけがない。そんなこと。