普通だったら良かった。せめて普通だと思われたい。それは、普通ではない僕が長い間縛られてきた考え方だ。
 けれど、頭が良くて運動ができて見た目も良くて――考えてみれば、清永も明らかに普通ではない。

 俯けていた視線を、弾かれたように上向ける。

「朝、体育館でだってちゃんと顔上げられてたし、もう大丈夫だと思うけどな」
「……でもそのうち返してくるんじゃないのか、あんた。『貸して』ってそういう意味だろ」

 苦々しく零しながら、朝に交わした会話が頭に蘇る。
 清永は『俺がずーっと持っててあげる』と言った。あの言葉がどこまで本気なのか、僕はまだ清永を信じきれていない。
 対する清永は、僕の内心が見えているかのように「朝も言ったじゃん」と笑い交じりに返してくる。

「こないだは『返せ』って言われてびっくりしたけど、久世くんが要らないなら借りっぱなしでも全然いいよ」
「……そんなことして、あんたになんの得がある」
「いや実は結構ある」

 は、と目を見開いた。
 顔を上げる。いつの間にか、日はだいぶ傾いていた。真向かいに立つ清永の顔が、逆光になってよく見えない。こんなに近くに立っているのに。