救急車の甲高いサイレンが、まだ耳の奥に残っている。そのせいで少し頭痛がする。
 ふたりの(こら)え気味の笑い声が重なったと同時に、上げていた口角が微かに震え、僕はそれ以上耐えきれず席を立った。

「え、久世どこ行くの? 先生もう来るぞ?」
「ああ……うん、ちょっと。ごめん、話の途中なのに」

 眉を寄せた武田に謝ってから、開きっぱなしの扉を目指して足を動かしていく。
 僕がいなくなっても特に問題はないとばかり、武田たちはやはり興奮気味に話を再開していた。僕の耳には、遠くなった彼らの声の代わりに、不安そうな、それでいて好奇心に満ちた女子たちの話し声が入り込んでくる。

「渋谷さん、このまま死んじゃったりして」
「ちょっと、やめなよそういうこと言うの……」

 大袈裟だ、とさっきと同じ考えが脳裏を(よぎ)って、溜息が零れた。

 渋谷さんは死なない。少なくとも、近日中には絶対に。
 皆は知らなくて当然だ。その未来を事実として知っているのは、きっと僕だけ。

 悲しいことに、僕は普通の人間ではない。