肩から手を外すことなく、清永は武田に顔を近づけて尋ねている。
 尋ねているわりに返答は求めていないし、謝罪をしているわりにまったく悪いと思っていない、そんな口ぶりだった。

「行こ、久世くん」
「え……と、僕?」
「うん。放課後付き合ってくれるって約束したじゃん、さっき」

 いやそんな約束はしていないが、とはさすがに零せなかった。
 まだ硬直している武田と中野へ「ごめん、じゃあまた」と曖昧に謝ってから、僕は清永に連れられて教室を後にした。

 廊下に出て間もなく、なんとか声を絞り出す。

「清永。あの、ああいうのは困る」
「ああいうのってなに」
「なにって、別に約束とかしてないだろ、僕ら」

 武田たちを挑発するような真似をされると僕が後から困るんだよ、とまでは言いにくく、結局はそれだけを漏らす。
 一方の清永は、微かに鼻で笑ったのみで、それきり再び黙ってしまった。

 渡り廊下に差しかかったところで、不意に清永が足を止めた。
 渋谷さんの事故があった日、そしてその翌日にも話した場所だ。蒸し暑さの中、あのときの話の内容を思い返し、急速に居心地が悪くなる。

 僕を振り返った清永は、不機嫌を隠そうともせずに唇を歪めた。