「ほら、じゃあ行こうぜ」

 僕の事情は訊かれない。というより、断り自体がなかったことにされている。
 武田と中野は、すでに別の、先月からふたりで一緒に始めたゲームの話をしていた。僕もインストールしろと言われて先日仕方なく始めた、人気のソーシャルゲームだ。

 これ以上断る隙を見出すのは無理だな、と諦めた。
 望まない力がこの身を離れても、人混みの中できちんと前を向けるようになっても、所詮、僕は僕だ。急には変われない。でも、胸の奥がちりちりと焦げついてならなくて、それが(しゃく)に障る。

 ……僕って、なんでこの人たちと仲良くしてないといけないんだっけ。

 誰とも深く関わりたくないからだ。だからこのふたりと一緒にいる。
 普通でありたい。周囲に普通だと思ってもらいたいから、目立つことは避けたい。孤立だってもちろん避けたい。普通にはなれないと分かっていたから、僕はずっと、そういう打算を働かせては消極的な選択を繰り返してきた。

 僕らの関係はいびつだ。
 武田は中野と僕を、中野は僕を、それぞれ下に見ている。対等ではないからこそ、ふたりは僕の内側にまでは深入りしてこない。