放課後。

「なぁ久世。今日オレら駅前に寄るんだけど、一緒に行くよな?」

 帰りの支度をしている途中、武田に声をかけられた。
 今日の帰り道は、ひとりで通学路の周辺をじっくり眺めながら、できるだけ俯かないで歩いてみたいと思っていた。だから返事をするまでに、本当ならあまり空けたくはない間が空いてしまう。

 武田自身は、ごく普通に誘っているつもりなのだと思う。
 いつもこの調子だ。僕には選択権が与えられていない感じがする。慣れてはいるが、断りたい場合にこちらばかりが気を遣わなければならなくなるから、少し息苦しい。

 朝、人の集まる場所でまっすぐ前を向けた。
 あのときに感じた新鮮な感動と、それに底上げされた前向きな気分が、今の誘いのせいでなんとなく振り出しに戻された気分になる。

「どしたん? 別に予定とかないでしょ?」

 念押しのように畳みかけてきたのは中野だ。
 武田と同じで、僕には〝うん〟以外の返事が許されていなそうな誘い方だな、と思う。

 断りたい。
 けれど、ふたりの機嫌を損ねてしまわない自然な断り文句を、きちんと伝えられるだろうか。
 頭が忙しく回り始め、息が詰まる。