「救急車の音めちゃめちゃうるさかったわ、なぁ久世?」
「ああ、うん。すごかったな本当」

 相槌を挟みながら、話に置いていかれないよう努める。
 あの血なまぐさい事故について、ふたりはずっと興奮気味に、それも笑い交じりに喋り散らかしている。

 いつもこうだ。
 人の不幸をネタにするのは嫌だが、僕には、ふたりに合わせる以外に取るべき手段がない。

 武田と中野は僕を対等に見ていない。でも、親しい友人がいない僕をそれなりに孤立させずにいてくれる。
 クラスで変に浮いてしまわないための、僕にとって貴重な居場所だ。逆にふたりにとっても、気軽に(いじ)れる面子として、僕はちょうどいいのだと思う。

 ざわざわ、ざわざわ。教室内のざわめきは勢いを増していく一方だ。
 午前八時二十分。担任はまだ教室に来ない。遅れている理由はおおよそ察せるが、さっさと現れてこの喧騒を(しず)めてほしい。

 外の空気が吸いたかった。
 できれば、今すぐ。