顔。顔。顔。顔。顔。顔。首から上が欠けている人は見当たらなかった。
 男子も女子も先生も、少なくとも立ちっぱなしの僕がおそるおそる左右に視線を動かして見えた範囲には、ひとりも。

「あ……」

 思わず声が漏れた。
 こんなに大勢の人が集まる場所で、俯かないで普通に前とか見ていいんだ――(ひら)けた視界の先を呆然と見渡しながら、新鮮な感覚がじわじわと湧き起こってくる。

「大丈夫だよ。久世くんのこれ(・・)、俺がずーっと持っててあげる」

 清永の声はどこまでも穏やかで、優しそうですらあった。
 咄嗟に後ろを振り返る。いつかは返されるのかもとか、覚悟はしておかないととか、普通に前とか見ていいんだとか、僕のそういう内心をまるごと見透かしているかのような口ぶりだったから、どんな顔で喋っているのか気になったのだ。

 目が合ったと同時に微笑みかけられ、ばつが悪くなる。