「あの子の首から上(・・・・)、普通にあった。容態が急変して~、とかもなさそうで良かったよ」

 ぐ、と喉の奥が鈍く痛む。
 首から上。清永の言葉を反芻しながら、自然と息が浅くなる。

 間もなく死ぬ人は、首から上が忽然(こつぜん)と消える。僕の目にはそう視えるようになる。
 けれど僕は、そうした詳細を一度も清永に伝えていない。

 つまり、清永は。

「あれっ、渋谷さんが心配だったわけじゃなく?」
「……いや」

 どういう会話だよこれ、と舌打ちしそうになる。
 周囲には僕ら以外に誰もいないが、どこかから視線を向けられているようで落ち着かない。首がどうこうという物騒な、しかも昨日の件で学校中に名前が知れ渡っている渋谷さんに関する話題だ。他人には極力聞かれたくない。

『あの子の首から上、普通にあった』

 今の言葉ではっきりした。
 清永は、僕の奇怪な力を、本当に奪い取ってしまったのだ。