『貸して』

 不気味な微笑み。頭を押さえつけてくる謎の挙動。そして、奇妙な発言。
 もしかして本当に、あいつが僕になにかしたんだろうか。誰にも告げていない僕の力を見破って、それを貸せと口にして――胸がどくどくと高鳴り始め、僕は咄嗟にそこを拳で押さえる。

 もし本当に、清永が言った通り、僕の力が清永に移ったのだとしたら?

 ぞくりと背筋が震える。
 僕ひとりだけを階下に運んでいくエレベーターの中、きつく唇を噛み締める。エレベーター内の鏡に映る自分の顔は、気持ち悪いくらいに青ざめていた。

 どうしてそんなことができるんだ。
 あいつは、なにがしたいんだ。

「くそ……」

 清永に、早く詳細を訊かなければ。
 時刻は午後六時に近づいている。エレベーターを降りた先の自動ドア越しに、外の景色が見えた。まだ日が暮れていないのに異様に薄暗くて、気味が悪かった。