「あんた、夕飯はどうするの?」
「あ……家にあるもの適当に食べるか、外で食べてから帰る、かも」

 意識を他に取られたままでの祖母との会話は、あからさまにたどたどしくなった。これ以上は、隣のお婆さんを意識しすぎて挙動不審になりそうだ。
 祖母は不思議そうにしている。かといって、詳細を説明できるはずもない。「じゃあまた明日」と短い挨拶を残し、僕は足早に病室を出てエレベーターへ向かった。

 どういうことだ。
 あのお婆さんには、確かに予兆が視えていたのに。

 二日前に僕が勘違いしただけ? いや、あり得ない。それなら、この二日で彼女の未来が変わったとか?
 分からない。予兆自体、それほど頻繁に視えるものではないから、前例がなくて判断がつかない。

 なんなんだよ、と困惑に眉が寄った、そのとき。

『それ、めっちゃいい』

 不意に脳裏を過ったのは、朝の清永とのやり取りだ。
 目を細めて笑う清永の、今思えばあまりにも奇怪だった渡り廊下での言葉が、急に耳の奥に蘇る。