けれど、清永が今立っている場所は――僕を暴走車から庇おうとでも言いたげだ。清永は最初から車道側を歩いていた。僕を車道側に並ばせなかった。

 今になって思えば、初めからこうなると予期していたような所作だ。

 頭が真っ白になった矢先、どん、と強い力で上半身を突き飛ばされた。
 なにも考えられないままの僕の目に映ったのは、僕を突き飛ばした清永の腕と、それから。

「ばーか」

 笑う清永の顔が、目の奥に灼きついて残る。
 身体のバランスを取る余裕も、悲鳴をあげる暇も、僕にはなにもなかった。

「俺はお前の、そういうところ、本当に、」

 倒れた身体が地面に叩きつけられる直前、くしゃりと清永の顔が歪んだ。
 ふたりきりのときに不意に見せてくるあの歪み方によく似ている。けれど、決定的になにかが違う。

 僕はきっと、その違いを見逃してはならなかった。

「きよなが」

 咄嗟に口をついた呼び声が、清永に届いたかどうかは分からない。
 本当に、に続いた清永の最後の言葉も、衝撃と(ごう)音|《おん》に掻き消されて僕には少しも聞き取れなかった。