不意に過った考えが、僕の口をますます動かなくさせる。
 最も伝えたいことを伝える直前で固まった唇は、もううまく動かせそうになかった。

 例えば僕の顔、もっとはっきり言うなら首から上が、清永の目にそもそも映っていないとしたら。

 ぞわ、と全身の肌が粟立つ。
 僕らが足を止めているのは、交差点の横断歩道に差しかかった場所だ。清永は車道側、僕は歩道側。
 ぶおん、と吹かしたような車のエンジン音が耳を刺して、はっと音のほうへ目を向けて、そこから僕の目に映る光景はあり得ないほどゆっくりになる。

「え?」

 無意識のうちに声が漏れていた。
 交差点、歩道の青信号はまだ点滅していない、けれど左折してきた車は明らかに減速をしていない。乱暴に動くタイヤが道路を削る音が続き、不快なそれが聞こえたと同時に、唐突に腑に落ちた。

 僕、これから死ぬのでは。
 清永は、それを知っていたのでは。

 誘われたのが今日だったこと、誘われた時間がピンポイントかつ中途半端だったこと、どれもこれも小さく違和感を覚えていたそのすべてが、最初から清永の計画だったのだとしたら。