四階のナースステーションで看護師さんに声をかけてから、祖母の病室へ向かう。
 あの指輪のお婆さんがどうか席を外していますように、と真剣に願う。首なしの姿しか見たことがないから、どのみち顔は分からないのだが。

「お邪魔します……あ、いた」

 六人部屋の端に祖母の顔を認め、少しほっとする。
 ただ、残念ながら隣の人もベッドの上にいた。直視は避けたから絶対とは言い切れないが、おそらく例の指輪のお婆さんだ。

 カーテンなどで仕切られているわけでもないから、ふとした折に首元を見てしまいそうで怖い。
 無理やり意識を切り替え、僕は祖母へと視線を向ける。

「ああ、葉月」
「どうも。はいこれ、荷物」
「わざわざ悪いねェ、どうもどうも」

 ハキハキと喋る祖母の声を聞いて、なんとなく安堵する。
 僕の目には、祖母は普段と変わらず元気に見える。まぁ検査入院で明日には退院だしな、と気が抜けたそのとき、不意に視線を感じてぎくりと背が強張った。

 隣のお婆さんだ。見られている。
 見たくないとあれほど強く思っていたのに、隣へ向いていく視線を止められない。ベッドの上で上半身を起こした彼女は、腹の前で手を組んでいた。組まれた手の片方、中指には、見覚えのある大きな指輪が見える。