「そう、なのかな」

 清永の細い疑問は、僕の意見を苦々しく感じているわけでも、鬱陶しく思っているわけでもなさそうだった。
 ただただ、自信だけがなさそうな声だった。

『同じになってほしい、俺と』

 いつかと同じに聞こえる。
 屋上への階段から手を引いて逃げた後、誰もいない教室で、人の形を派手に崩しながら僕に手を伸ばしてきた、あのときの清永の声と。

 それきり口を閉ざし、清永は歩みを再開した。
 僕もまた、彼に合わせて再び足を動かし始める。
 なんだか、今日はひたすらこの繰り返しだ。

「でも、葉月は良かったのか」
「なにが」
「俺と友達になっちゃって」

 ……『でも』も『なっちゃって』も、なんだよその言い方、と眉が寄る。
 本の話題の後だからだろうか。清永の口ぶりは、まるで僕が作中のミツバと同じく、この後ひどい不幸に見舞われるとでも言いたげだ。

 昨日の塾の帰り、大苑くんと話したときに浮かんだ仮説が、ふと脳裏を過った。
 人の内側にあるモノを取り込んで、清永はなにをしているのか。なにがしたいのか。僕は分からずじまいで、清永自身も僕に明かそうとしない。