だからこそぎくりとした。
 語り口が妙に淡々としていて、僕にはなんとなく突き放すような調子に聞こえてしまう。

「そういうことじゃ……なくないか」

 もう少し考えてから喋りたいと思う。
 けれど、清永の感想の言葉は妙に乾いていて、冷たくもあって、前向きでもなくて、ものすごく落ち着かなかった。

「部屋から一歩も出ないままだったら、息はしててもそれだけだった。死んでないだけで、ミツバはちゃんと生きてる気にはなれなかったはずだ」

 ひたりと清永が足を止める。
 合わせる形で、僕も立ち止まる。

 小説の話をしているはずが、自分のことを伝えている気分だった。
 きっと、主人公と出会って見える世界が変わったミツバと同じで、僕も清永と出会って変わったからだ。
 俯かずに済むようになった。人の顔をしっかり見られるようになった。そして、普通ではない自分をいちいち否定せずに済むようにもなった。

 誰かと出会ったり一歩を踏み出したりしたせいで傷つくことも、確かにある。
 でも、出会えたからこそ、踏み出せたからこそ得られるものだって絶対にある。

 部屋の外に足を踏み出したミツバもそうだったのではないかと思う。
 今の僕と同じように。