受け取った本を、いそいそと鞄の中にしまう。
 僕のその所作を見届けてから、清永は再び歩き始め、僕も黙って隣をついていく。

「映画で観たときも思ったんだけどさ」
「うん?」
「その話に出てくる〝ミツバ〟って、事故で脚、失くしちゃうじゃん」

 登場人物名に続き、おそらく作中で最も衝撃的なシーンについて話を振られ、僕は少し面食らいつつも「うん」と相槌を挟む。

 ミツバは、主人公と偶然出会った中学生の女の子だ。別の学校へ通う主人公との交流を経て、引きこもりを克服したミツバは、一度は諦めた陸上競技にまた挑戦したいと考えるようになる。
 ところが、まさに復帰戦となる大会の当日、ミツバは事故に巻き込まれて片脚を失い、陸上を続けられなくなってしまう。

 苦しい展開が続く場面だ。共感しすぎると息苦しくなるから、なるべく感情移入しないよう意識して読み進めたシーンだった。
 清永の歩調に合わせて歩きながら、続く言葉を静かに待って、でも。

「部屋にこもったままだったら……主人公に会わなかったら、脚、失くさなくて済んだのにな。そしたらミツバ、痛い思いもつらい思いもしなくて良かったのに」

 清永の声音は『借りっぱでごめんな』と告げたときと変わらなかった。