清永について分からないことはまだまだたくさんあるけれど、別に急がなくてもいい。
 時間をかけて信頼を積み重ねていって、いつか清永が自分から切り出したいと思ってくれる日がくるのなら、それで。

 そこに至るまでの時間を、僕は、清永と一緒に積み重ねていきたい。

「来ないわけないだろ。なんなら僕から誘いたかったんだ、ずっと」

 真っ向から見つめ返しながら告げる。
 目が合わなくなってから初めて勇気を出してそうした瞬間、奇妙な感覚に陥った。やはり清永の視線が妙だ。まるで、僕の目の位置を探しているような動きに見える。

 抱え続けていた違和感がさらに増した、そのときだった。

「そういやこれ、返すわ。ありがと」

 足を止めた清永が僕から目を逸らし、鞄の中身を漁り始める。

「借りっぱでごめんな。休んでた間に最初から全部読んだ」
「あ、ああ」

 差し出されたのは、七月に入ってすぐ、屋上で貸したあの本だった。
 受け取ることに気を取られ、直前まで覚えていた清永の視線に対する違和感はあっさり掻き消えてしまった。