駅の敷地内に足を踏み入れながら、唇を噛み締める。
 渋谷さんから無理やり距離を取って逃げ込んだ教室で、あのとき、清永は過去にないほど不安定だった。

『人間って皆、こんな感情抱えて生きてるのか』
『なんで俺がこんなもの抱えてる』
『葉月も俺に抱えてくれてるのか』

 あれを口にしたとき、清永はどんな顔をしていただろう。
 思い出せない。そう、ひどく歪んでいたからだ。今までで一番の、大きな大きな歪みだった。

 情けないことに、あのとき僕は怯んだ。

 自分の願いは〝清永に普通のままでいてほしい〟だと思い込んでいた。
 でも違った。大苑くんと話して見えた答えを、僕は頭の中でひたすら繰り返す。

 ――清永が待ち合わせ場所の北口前に現れたのは、約束の時間ぴったりの午後四時三十分だった。

「あは。なんか久しぶり~」
「……そうだな」

 笑う清永は、少し頬が痩せて見えた。

「風邪でもひいてたのか、ずっと休んで」
「うんまぁそんなとこ。ごめんな、返事できてなくて」