「次の電車で帰るよ。ありがと、話聞いてくれて」
「ああ、……じゃあ、また」
「うん。またね」

 手を振って改札を通過していく大苑くんの背中を、僕も手を振り返しながらぼんやりと見送った。
 大苑くんは行ってしまった。背中すら見えなくなった。それでも、なかなかその場から動けない。僕だってもう帰らないといけないのに。

『普通じゃないとなんか駄目なの?』

 そうだ。そうだった。
 あれは別に、僕だけの話ではなかった。清永自身にも当てはまる話だった。

 普通であることと異常であること、そのどちらも僕は知っている。経緯は違っても、それは清永も同じだ。
 普通なのか普通ではないのか、それは僕にとって問題の本質ではない。僕は清永に普通の人でいてほしいわけではなくて、ありのままの清永でいてほしいだけ。

 固まっていた足が、やっと動き始める。

 駅から出ているバスに乗って帰ることにした。
 乗り慣れないバスの中、席に座ってから、スマホをマナーモードに切り替えるために鞄から取り出す。

 そのまま、僕の手はびくりと動きを止めた。
 ステータスバーに着信のマークが出ている。慌ててバーを下げて詳細を確認した瞬間、胸がきりきりと締めつけられるように痛んだ。