「あれってなんだったのか、今もたまに思い出すんだ。あのとき見た清永くんの、くにゃくにゃに伸びて曲がった腕と一緒に」

 暑いはずなのに、寒気が止まらなくなる。

 歪んだ腕。お礼。
 そういえば僕も、前に清永からそういう言葉をかけられた気がする。

『めっちゃいい』
『貸して』
『すごく役に立ってる』

 ――もしかしたら、清永は。

 突拍子もなにもない仮説が、這うようにして頭を覆い始める。
 くらくら、くらくら、眩暈がひどい。大苑くんの話に集中しなければと神経を尖らせれば尖らせるほど、裏腹に頭がぐちゃぐちゃになっていく。

「急に変な話してごめん。ええと、それから清永くん、たまに保健室登校するようになったっぽくて」

 僕らの間に漂い始めた、なんとも言えない不気味な空気を和らげたかったのか、大苑くんは分かりやすく声のトーンを上げて続ける。

 清永が保健室登校を始めた頃から、刺々しかった保健の先生が穏やかになったそうだ。性格が変わりすぎて、一時期、生徒たちの間では噂の的にもなったらしい。
 そして痩せぎすだった清永は清永で、夏から冬にかけて次第に健康的な身体つきに変わっていった。背も大きく伸び、二年に進級して学校に復帰してからは、もはや別人のごとく外見が変わっていたそうだ。