「……え?」

 詰まった喉から、からからに乾いた声がぽつりと零れる。
 眩暈がした。まさか僕以外にも、清永のそれ(・・)を目撃した人がいるなんて。

「へ、変なこと言ってるのは分かってる。おれだっておかしいと思った、夏だったし一瞬熱中症とかかなって自分のこと疑ったりもして、でも」
「……でも?」
「瞬きしてもう一回目ェ開けたら、清永くんの腕、元に戻ってた。やっぱおれの見間違いだったのかもって思って、けどその後に清永くんから言われたんだ。『ありがとう』って、はっきり」

 ぞわ、と背筋が粟立つ。
 お礼。そのタイミングで、清永が大苑くんにそれを告げた理由はなんだ。

「『なに?』って訊き返したけど、清永くん、もう首を横に振るだけでなんにも言わなくて……なんのお礼だったんだろうな。別におれ、あのとき清永くんになんかしたわけじゃないのに」
「……へぇ」
「ていうか、お礼を言いたいのはむしろおれのほうだったんだよ」

 いつの間にか、大苑くんの眉間には深く皺が寄っていた。
 その頃、大苑くんには部活で悩みがあったそうだ。かなり深く悩んでいたらしく、けれど保健室で清永に会って以来、そのストレスが急に軽くなったという。悩み自体はなにも解決していなかったにもかかわらず。