「教室戻れそう? それとも保健室とか寄ってこっか、送ってくよ」

 ちょっと顔色悪いかも、と再び伸びてきた清永の手を、今度こそ振り払った。
 ぱし、と音がするくらい強く(はた)いたからか、清永は細めていた目をきょとんと見開いて、それから払われた自分の手をじっと凝視した。

 文武両道の、ルックスも内面も整った完璧人間。
 皆が憧れる、校内で知らない人がいないほどの有名人。
 そんな相手の、あからさまに奇怪な言動の数々を振り返る。

 たった数分で、この男に対するイメージは完全に変わっていた。
 こいつって外面(そとづら)がいいだけで結構ヤバい奴だったんだな、と思ったら最後、〝今のってなんなんだ〟と確認する気は完全に失せる。

「いい。ひとりで行く」

 吐き捨てるように告げたときには、もう足が動いていた。
 この不気味なクラスメイトと、とにかく距離を置きたい。その一心で、僕は小走りにその場を後にした。