「それ、めっちゃいい。貸して(・・・)

 低くて平らな声だった。
 さっきまでこんな声してたっけこの人、と鳥肌が立つ。
 困惑に眉が寄ったその瞬間、頭に乗る清永の手に、ひときわ強く力がこもった。

 ぐ、と(うめ)きが漏れ、くらくらと視界が揺れる。
 相手の奇行をただ受け入れるしかできないまま、強烈な眩暈(めまい)に襲われた僕はまた低く呻いて、そして。

「っ、あ……?」

 気づいたときには、すでに眩暈は止まっていた。
 わずかな余韻も残さず、まるで最初から感じていなかったみたいに、綺麗に。

 清永の手も、最初から僕の頭になんて少しも触れていなかったとでも言いたげにすっかり離れていて、僕だけがひどく混乱していて、は、と震える吐息が零れた。

 なんだったんだ、今の。
 笑う清永の、弧を描くように細められた三日月形の両目から、なぜか目が離せなくなる。

「大丈夫? 具合悪い?」
「……いや」