僕の心配は完全に()(ゆう)だった。
 肩透かしを食らったようではあるが、異変がないならなによりだと思う。

 ただ、その杞憂自体、根本的にズレている気がしてならないのも事実だ。

 清永の心身が無事な理由、清永が僕から力を奪えた理由、普通とは違う力が僕にあると清永が勘づいた理由――それらの答えは、全部同じなのではないか。
 清永は普通ではない。成績とか運動神経とかルックスとか、彼を構成するそういう外側の話ではなく、もっと内側に、清永は明らかな異常を抱えている。

 けれど、今こうして僕の隣で喋っている清永はあまりにも普通の人間だ。雲の上の人でも、人以外のなにかでもない、普通の。
 清永が人ではないかもしれないだなんて、そんな馬鹿げたことが起こるわけがない。ないはずなのに、僕の不安は和らがない。

「……昨日」
「ん~?」
「渋谷さんと話してるとき、ちょっと苛ついてなかったか、あんた」

 遠慮がちに隣を見上げると、微かにぴくついた清永の唇が目に留まる。

「すごいな葉月。なんで分かったの、普通の人には分からないようにしてたのに」

 目が合う。黒目に宿るぎらつきが、普段より強い気がする。
 ゆっくりと三日月の形に細められていく清永の瞼を、僕は目を逸らさずじっと見つめる。