M→モノローグ N→ナレーション キャラ名(年齢)※初出のみ
第4話「初めて恋した人」
〇石切家・客間(3話終わりの続き)
晶羅、廊下に繋がるふすまに向かって。
晶羅「俺は石切彩寧を花嫁として迎えるぞ!!」
観念した元造は、ふすまを開けて室内に入ってくる。
和臣「まさか盗み聞きをしていたとは」
晶羅「(呆れ顔)大方、この子が告げ口しないか探るためだろうよ」
元造は、彩寧を見下ろして。
元造「この屑石が新種の柘榴石ですと?」
元造、嘲笑う。
元造「お戯れも、いい加減になさってください」
その言葉に傷つき、うつむく彩寧。
晶羅「……確かに言葉には気をつけた方がいいかもな」
晶羅は立ち上がり、元造の前に立つ。
晶羅「まさか俺の柘榴石を見る目が節穴だと言われるとは思わなかった。代々柘榴石の錺師を務めた霞初家の当主である俺の目が」
晶羅は口角を上げているが、目は全く笑っていない。
晶羅「お前こそ、冗談だよな?」
晶羅の方が背が高いので、元造は見下ろされる立場になる。
元造「(冷や汗を流し)……申し訳ございません。出過ぎた真似を」
晶羅「まぁ、気持ちはわからなくもない」
晶羅、ポンと元造の肩に手を置き。
晶羅「毎日のように柘榴石の宝玉姫を見てきた花篝村の村長とあろうものが、新種の柘榴石に気づかないとは」
晶羅、また肩を叩く。
晶羅「しかもそれが実の娘ときた! こんな大失態あってはならないだろう」
また肩を叩き。
晶羅「だが素直に非を認めたほうが身のためだ」
晶羅、とどめの一言。
晶羅「お前が失脚を望む奴らから退陣を要求される前に、俺が引導を渡してもいいのだから」
追い詰められた元造はブルブルと震えている。
元造「……し、しかし、その娘を花嫁にすることはお勧めしません」
晶羅「何が不満なんだ?」
晶羅は、元造の肩に置いていた手を離して。
晶羅「当初の目論見とは違うかもしれないが、石切家の娘が霞初家に嫁ぐのは変わらない」
元造「宝玉姫の精神力は、加護を与えた宝石の硬度に繋がると言われております。まだ未知数の宝玉姫など」
晶羅、うんざりとした顔で。
晶羅「迷信深い『硬度信者』め……安心しろ。彼女が精神的に強いことは証明されている」
元造「何を根拠に」
晶羅「わからないのか?」
晶羅は彩寧の隣に座り、彼女の手を取る。
晶羅「お前たちに虐げられても、今日まで諦めず前を向いて生き続けた……それが何よりの証拠だ」
顔を上げた彩寧の目を見て、晶羅は言う。
晶羅「生まれてきてくれて、そして俺と出会ってくれて、ありがとう──彩寧」
彩寧の目から、ポロポロと涙がこぼれる。その涙でさらに目がキラキラして見える。
彩寧М(よかったんだ。私、生まれてよかったんだ)
彩寧の涙を、晶羅は指で拭いつつ。
晶羅「(彩寧に目を向けたまま)もう一度言うぞ。石切彩寧を花嫁として迎える……いいな?」
元造、平伏し。
元造「……承知いたしました」
〇石切家・離れ(夜)
晩酌をしている晶羅と和臣。
晶羅はとても上機嫌。
晶羅「酒がこんなに美味い夜は初めてだ!!」
和臣「飲みすぎないでくださいよ。明日、見合いをした宝玉姫の前で結果をお伝えするのですから」
晶羅「まだまだやることは山積みか」
晶羅、酒を飲み。
晶羅「婚約したし、やっと名前で呼べるな……彩寧は?」
和臣「もうお休みになられました。目まぐるしい1日でしたし、疲れるのも無理はありません」
晶羅は和臣のお猪口に酒を注ぐ。
晶羅「今日は無礼講だ! もっと飲め飲め!」
和臣「ではありがたく」
和臣、酒を飲む。
和臣「(大きく息を吐き)霞初様が無事に想い人と結婚できるのかと思うと、私も胸のつかえが取れる思いです」
晶羅「(キョトンとし)? ……俺は彩寧に恋しているのか?」
和臣「はぁ!?」
和臣、晶羅に詰め寄り。
和臣「じゃあ、何ですか! あなたは好きでもない女性の肩を抱き寄せ、離れに囲って」
晶羅「保護を『囲う』と言うな! 人聞きの悪い!」
だが和臣は止まらない。
和臣「さらに見合いの際には美しいと口説いて」
和臣、ブルブルと震え出し。
和臣「あ、あまつさえ……」
和臣、晶羅の肩を掴んで前後に激しく揺らす。
和臣「落雁で『あーん』と餌付けするような男だったんですか!! 見損ないました!」
晶羅「酔ってるのか? 顔真っ赤だぞ!」
和臣の顔は酔いで真っ赤になっている。
和臣「飲まなきゃやってられませんよ、こんなの!」
晶羅「(たじろぎ)お、おぉ」
和臣、自分のお猪口にお酒を注いで飲む。
和臣「あんな思わせぶりな態度を取っておいて、霞初様は別の女性を花嫁に選ぶのかと思うと」
和臣、泣きだして。
和臣「彼女が可哀そうで可哀そうで……見合いの間も、ずっと胃痛が」
晶羅「お前、泣き上戸なんだな」
和臣「悪いですか!」
晶羅「いや、これまで飲みの誘いに乗らなかった理由を知れて、むしろよかったよ」
晶羅、和臣に手拭いを渡す。
晶羅「いったん落ち着けって」
和臣が涙を拭いている間に、これ以上飲まないように彼のお猪口を回収する晶羅。
晶羅「でもそれほど肩入れするぐらい仲良くなっているなんてな」
晶羅、そこで心がモヤッとする。
晶羅М(? ……モヤ?)
形容できない感情に、眉を顰める晶羅。
和臣「それ!!」
突然、和臣は晶羅に指を突きつけて。
和臣「いい加減、私に嫉妬するの止めてください!」
晶羅「嫉妬? ……いやいや、まさか俺が」
和臣「黙りなさい! 恋愛初心者!!」
晶羅「お前もだろうが!!」
和臣「そんな私は保護している間に、彼女の好きな食べ物と色を知りましたが?」
晶羅「!!」
和臣「(煽ってる)でも私のことを羨ましいなんて思わないですよね~嫉妬してないんですから」
晶羅「……(ごにょごにょと何か言っているが、よく聞こえない)」
和臣「何です?」
晶羅「教えろ……いえ、教えてください」
和臣「どうして知りたいんですか?」
晶羅「俺が知らない彩寧を、東雲が知っているのかと思うと心がモヤモヤする。でも知ってたのが幸枝さんだったら……そうはならない」
和臣、茶化さずに黙って聞いている。
晶羅「多分、俺以外の男が知っているが嫌なんだ。それに彩寧の好きなものを知って」
(晶羅のイメージで)晶羅に花が咲いたような笑顔を向ける彩寧のカット。
晶羅「それで喜んでほしい。そして笑った顔を俺に見せてくれたら」
晶羅はそこで恋心を理解し、幸せそうに微笑む。
晶羅「──あぁ、俺は彩寧に恋してるんだな」
和臣「自覚されたようで何よりです」
和臣、晶羅のお猪口に酒を注いで。
和臣「誰かを想う気持ちは尊いものですが、振り回されないように。村長への制裁が、いささか過剰でした」
図星だったのか、ウッと詰まる晶羅。
晶羅「……今後は気をつけよう」
晶羅、酒を飲んで──。
晶羅「あぁ!?」
手からお猪口が落ちる。
晶羅「俺、彩寧から結婚の同意をもらってない」
晶羅、頭を抱えて。
晶羅「しかも状況的に新種の柘榴石だったから、求婚したと思われてるかもしれん……いや、それもあるが、わかる前から惹かれていたんだ」
和臣「何を今更……政略結婚なんですから、本人の意思など後回しになるものです」
晶羅「それはそうだが、これは印象の問題だ! 宝石の目で判断する村の人と同じだと思われて……もし嫌われたら」
晶羅、顔が真っ青に。
和臣М(……まさか、周りを気にせず我が道を行く霞初様が)
和臣はそんな晶羅を意外そうに見ている。
和臣М(好きな人からの印象でこんなに一喜一憂するようになるなんて)
和臣がしみじみと感動していると、晶羅は立ち上がり。
晶羅「今から改めて求婚してくる」
和臣「さっきの『気をつける』は何だったんですか!」
今にも飛び出しそうな晶羅を、全力で止める和臣。
和臣「相手はもう寝てるんですよ!?」
晶羅「でも誤解は早く解いた方が」
和臣「今言っても酔っぱらいの戯言だと思われるだけです!」
晶羅「……それもそうだな」
晶羅、座って。
晶羅「明日にする」
和臣、痛むお腹を摩り。
和臣М(この痛みとは、長い付き合いになりそうですね)
〇石切家・広間(翌日)
晶羅と見合いした彩寧を除く11人の宝玉姫たちが座っている。
彼女たちの前には晶羅と彩寧が並んで座っている。
晶羅は今回の結果について話している。
彩寧М(翌日、霞初様はまず見合いをした宝玉姫たちを労い、感謝を述べた)
晶羅、彩寧の背に手を添え。
彩寧М(次に私が新種の柘榴石の宝玉姫だったこと。そして私を花嫁として迎える旨を伝えた)
嬉しそうな晶羅に、彩寧もつられて微笑む。
彩寧がふと視線を前に戻すと、鬼の形相でこちらを見ている佳恵と目が合う。
彩寧М(ただ意外だったのが──)
恐怖からうつむく彩寧。
〇石切家・離れ
報告を終えた晶羅は、和臣と話している。
晶羅「あの彩寧の妹、よく怒りを抑えたな」
お茶を入れる彩寧。
晶羅「結果に納得せず、ひと悶着起こるかと思っていたんだが」
彩寧、二人の前に「どうぞ」とお茶の入った湯飲みを置く。
和臣「(彩寧に会釈し)おそらくあの父親が事前に伝えていたのでしょう」
晶羅「まぁ、何事もなく終わってよかった」
和臣「本家の方にも電報を送ったのですが、新種の件で向こうはかなり混乱しているらしく」
晶羅、お茶を飲みながら聞いている。
和臣「一刻も早く帰還し、当主の口から報告してほしいと」
晶羅「俺の決めた名前にでも文句でもあるのか? あいつらは」
彩寧「私はわかりやすくて、いいと思いますよ。『虹色柘榴石』」
晶羅「どちらにせよ送った通りだし、早く帰ったところで」
和臣「それが本家だけではなく、『十二玉将』も急かしているそうで」
晶羅、それを聞いて苦虫を嚙み潰したような顔に。
彩寧「『十二玉将』?」
和臣「霞初家を含む錺師の十二名家を指す呼称です」
和臣、眼鏡をかけ直す。眼鏡が「キラーン!」と光り、先生モードへ。
和臣「霞初家の柘榴石のように、それぞれ司る宝石と宝玉姫がいるのですが……これから嫌でも交流するでしょうから、彼らについては私が追々教えていきましょう」
彩寧「ありがとうございます!」
晶羅「しかしそうなると、明日中には発った方がいいだろう」
和臣「ではそのように手配します」
晶羅「頼む」
彩寧「あの、その前に幸枝さんのお墓参りに行ってもよろしいでしょうか? 次はいつ来れるかわからないので」
晶羅「なら俺も行こう。彩寧の恩人で親代わりのような人だ」
晶羅、彩寧を愛おしそうに見つめ。
晶羅「ぜひ俺にも挨拶させてくれ」
彩寧M(これって……)
彩寧、ドキドキする胸に手をやり。
彩寧M(け、結婚報告ってことだよね?)
和臣「場所はどこに?」
彩寧「村の外れで、少し山を登ったところにあります」
和臣「では動きやすい服に着替えましょうか」
◯石切家・表
着物から動きやすい袴姿に着替えた彩寧が1人、待っている。着物の柄はテッセンの花。
晶羅の声「悪い。待たせた」
彩寧が顔を向けると、そこには正装の着物から洋服に着替えた晶羅が。上はシャツにベストで、下はスラックスに革靴。
そして帯刀ベルトに刀を一本差している。
彩寧、初めて見る晶羅の洋装に目を輝かせて。
彩寧「霞初様も洋服をお召しになるのですね。素敵です!」
晶羅「和服も悪くないが、留学先で着てからはこちらの方が動きやすくて性に合う」
彩寧「ということは外つ国に? 洋服をカッコよく着こなすだけではなく、留学まで経験なさっているなんて」
彩寧、下心を感じさせない純粋無垢な笑顔で。
彩寧「霞初様は私が思っている以上に、ずーっとすごいお方なのですね!」
晶羅「(照れから目を逸らし)……まぁ、それほどでも」
彩寧「その刀は?」
晶羅「厭魅対策だ。ここ一帯は浄化石があるから必要ないかもしれないが、一応な」
晶羅、彩寧の姿を見て満足げに。
晶羅「今回は俺が見立てたが、彩寧もよく似合ってて可愛いよ……それに」
晶羅は悪戯っぽい笑みを浮かべて、自分のベストの裾を摘んで見せる。
晶羅「『お揃い』、だしな」
そこには彩寧の着物の柄と同じ、テッセンの花の刺繍がワンポイントで入っている。
彩寧「……あ、わ」
彩寧はキャパオーバーで、頭から湯気が出そうなほど真っ赤。
晶羅「さぁ、日が暮れる前に行こう」
◯花篝村の外れ〜花畑
彩寧が先導する形で山道を進む2人。
彩寧「供える花を摘むために寄り道してもよろしいでしょうか?」
晶羅「もちろん」
少し進むと、開けた場所に出る。そこには様々な野花が咲く花畑が。
晶羅「……いいところだな」
彩寧「ふふ、ありがとうございます」
彩寧、摘む花を選びつつ。
彩寧「まだ夢みたいです。私が霞初様の花嫁なんて……でも選ばれたからには、全力で責務を果たします! でなければ他の宝玉姫に顔向けできませんから」
彩寧、晶羅の方を向き。
彩寧「ただ私は今まで宝玉姫として育てられてきませんでした。そのせいで迷惑をおかけするかもしれませんが……」
晶羅、不安から彩寧の顔が曇るのを見て。
晶羅M(あぁ……俺は恋に浮かれて、彩寧をちゃんと見れていなかった)
晶羅「実は話しておきたいことがあるんだ。霞初家の先代の宝玉姫」
ザァッと一陣の風が吹き、花々を揺らす。
晶羅「──俺の母について」
(第5話に続く)
第4話「初めて恋した人」
〇石切家・客間(3話終わりの続き)
晶羅、廊下に繋がるふすまに向かって。
晶羅「俺は石切彩寧を花嫁として迎えるぞ!!」
観念した元造は、ふすまを開けて室内に入ってくる。
和臣「まさか盗み聞きをしていたとは」
晶羅「(呆れ顔)大方、この子が告げ口しないか探るためだろうよ」
元造は、彩寧を見下ろして。
元造「この屑石が新種の柘榴石ですと?」
元造、嘲笑う。
元造「お戯れも、いい加減になさってください」
その言葉に傷つき、うつむく彩寧。
晶羅「……確かに言葉には気をつけた方がいいかもな」
晶羅は立ち上がり、元造の前に立つ。
晶羅「まさか俺の柘榴石を見る目が節穴だと言われるとは思わなかった。代々柘榴石の錺師を務めた霞初家の当主である俺の目が」
晶羅は口角を上げているが、目は全く笑っていない。
晶羅「お前こそ、冗談だよな?」
晶羅の方が背が高いので、元造は見下ろされる立場になる。
元造「(冷や汗を流し)……申し訳ございません。出過ぎた真似を」
晶羅「まぁ、気持ちはわからなくもない」
晶羅、ポンと元造の肩に手を置き。
晶羅「毎日のように柘榴石の宝玉姫を見てきた花篝村の村長とあろうものが、新種の柘榴石に気づかないとは」
晶羅、また肩を叩く。
晶羅「しかもそれが実の娘ときた! こんな大失態あってはならないだろう」
また肩を叩き。
晶羅「だが素直に非を認めたほうが身のためだ」
晶羅、とどめの一言。
晶羅「お前が失脚を望む奴らから退陣を要求される前に、俺が引導を渡してもいいのだから」
追い詰められた元造はブルブルと震えている。
元造「……し、しかし、その娘を花嫁にすることはお勧めしません」
晶羅「何が不満なんだ?」
晶羅は、元造の肩に置いていた手を離して。
晶羅「当初の目論見とは違うかもしれないが、石切家の娘が霞初家に嫁ぐのは変わらない」
元造「宝玉姫の精神力は、加護を与えた宝石の硬度に繋がると言われております。まだ未知数の宝玉姫など」
晶羅、うんざりとした顔で。
晶羅「迷信深い『硬度信者』め……安心しろ。彼女が精神的に強いことは証明されている」
元造「何を根拠に」
晶羅「わからないのか?」
晶羅は彩寧の隣に座り、彼女の手を取る。
晶羅「お前たちに虐げられても、今日まで諦めず前を向いて生き続けた……それが何よりの証拠だ」
顔を上げた彩寧の目を見て、晶羅は言う。
晶羅「生まれてきてくれて、そして俺と出会ってくれて、ありがとう──彩寧」
彩寧の目から、ポロポロと涙がこぼれる。その涙でさらに目がキラキラして見える。
彩寧М(よかったんだ。私、生まれてよかったんだ)
彩寧の涙を、晶羅は指で拭いつつ。
晶羅「(彩寧に目を向けたまま)もう一度言うぞ。石切彩寧を花嫁として迎える……いいな?」
元造、平伏し。
元造「……承知いたしました」
〇石切家・離れ(夜)
晩酌をしている晶羅と和臣。
晶羅はとても上機嫌。
晶羅「酒がこんなに美味い夜は初めてだ!!」
和臣「飲みすぎないでくださいよ。明日、見合いをした宝玉姫の前で結果をお伝えするのですから」
晶羅「まだまだやることは山積みか」
晶羅、酒を飲み。
晶羅「婚約したし、やっと名前で呼べるな……彩寧は?」
和臣「もうお休みになられました。目まぐるしい1日でしたし、疲れるのも無理はありません」
晶羅は和臣のお猪口に酒を注ぐ。
晶羅「今日は無礼講だ! もっと飲め飲め!」
和臣「ではありがたく」
和臣、酒を飲む。
和臣「(大きく息を吐き)霞初様が無事に想い人と結婚できるのかと思うと、私も胸のつかえが取れる思いです」
晶羅「(キョトンとし)? ……俺は彩寧に恋しているのか?」
和臣「はぁ!?」
和臣、晶羅に詰め寄り。
和臣「じゃあ、何ですか! あなたは好きでもない女性の肩を抱き寄せ、離れに囲って」
晶羅「保護を『囲う』と言うな! 人聞きの悪い!」
だが和臣は止まらない。
和臣「さらに見合いの際には美しいと口説いて」
和臣、ブルブルと震え出し。
和臣「あ、あまつさえ……」
和臣、晶羅の肩を掴んで前後に激しく揺らす。
和臣「落雁で『あーん』と餌付けするような男だったんですか!! 見損ないました!」
晶羅「酔ってるのか? 顔真っ赤だぞ!」
和臣の顔は酔いで真っ赤になっている。
和臣「飲まなきゃやってられませんよ、こんなの!」
晶羅「(たじろぎ)お、おぉ」
和臣、自分のお猪口にお酒を注いで飲む。
和臣「あんな思わせぶりな態度を取っておいて、霞初様は別の女性を花嫁に選ぶのかと思うと」
和臣、泣きだして。
和臣「彼女が可哀そうで可哀そうで……見合いの間も、ずっと胃痛が」
晶羅「お前、泣き上戸なんだな」
和臣「悪いですか!」
晶羅「いや、これまで飲みの誘いに乗らなかった理由を知れて、むしろよかったよ」
晶羅、和臣に手拭いを渡す。
晶羅「いったん落ち着けって」
和臣が涙を拭いている間に、これ以上飲まないように彼のお猪口を回収する晶羅。
晶羅「でもそれほど肩入れするぐらい仲良くなっているなんてな」
晶羅、そこで心がモヤッとする。
晶羅М(? ……モヤ?)
形容できない感情に、眉を顰める晶羅。
和臣「それ!!」
突然、和臣は晶羅に指を突きつけて。
和臣「いい加減、私に嫉妬するの止めてください!」
晶羅「嫉妬? ……いやいや、まさか俺が」
和臣「黙りなさい! 恋愛初心者!!」
晶羅「お前もだろうが!!」
和臣「そんな私は保護している間に、彼女の好きな食べ物と色を知りましたが?」
晶羅「!!」
和臣「(煽ってる)でも私のことを羨ましいなんて思わないですよね~嫉妬してないんですから」
晶羅「……(ごにょごにょと何か言っているが、よく聞こえない)」
和臣「何です?」
晶羅「教えろ……いえ、教えてください」
和臣「どうして知りたいんですか?」
晶羅「俺が知らない彩寧を、東雲が知っているのかと思うと心がモヤモヤする。でも知ってたのが幸枝さんだったら……そうはならない」
和臣、茶化さずに黙って聞いている。
晶羅「多分、俺以外の男が知っているが嫌なんだ。それに彩寧の好きなものを知って」
(晶羅のイメージで)晶羅に花が咲いたような笑顔を向ける彩寧のカット。
晶羅「それで喜んでほしい。そして笑った顔を俺に見せてくれたら」
晶羅はそこで恋心を理解し、幸せそうに微笑む。
晶羅「──あぁ、俺は彩寧に恋してるんだな」
和臣「自覚されたようで何よりです」
和臣、晶羅のお猪口に酒を注いで。
和臣「誰かを想う気持ちは尊いものですが、振り回されないように。村長への制裁が、いささか過剰でした」
図星だったのか、ウッと詰まる晶羅。
晶羅「……今後は気をつけよう」
晶羅、酒を飲んで──。
晶羅「あぁ!?」
手からお猪口が落ちる。
晶羅「俺、彩寧から結婚の同意をもらってない」
晶羅、頭を抱えて。
晶羅「しかも状況的に新種の柘榴石だったから、求婚したと思われてるかもしれん……いや、それもあるが、わかる前から惹かれていたんだ」
和臣「何を今更……政略結婚なんですから、本人の意思など後回しになるものです」
晶羅「それはそうだが、これは印象の問題だ! 宝石の目で判断する村の人と同じだと思われて……もし嫌われたら」
晶羅、顔が真っ青に。
和臣М(……まさか、周りを気にせず我が道を行く霞初様が)
和臣はそんな晶羅を意外そうに見ている。
和臣М(好きな人からの印象でこんなに一喜一憂するようになるなんて)
和臣がしみじみと感動していると、晶羅は立ち上がり。
晶羅「今から改めて求婚してくる」
和臣「さっきの『気をつける』は何だったんですか!」
今にも飛び出しそうな晶羅を、全力で止める和臣。
和臣「相手はもう寝てるんですよ!?」
晶羅「でも誤解は早く解いた方が」
和臣「今言っても酔っぱらいの戯言だと思われるだけです!」
晶羅「……それもそうだな」
晶羅、座って。
晶羅「明日にする」
和臣、痛むお腹を摩り。
和臣М(この痛みとは、長い付き合いになりそうですね)
〇石切家・広間(翌日)
晶羅と見合いした彩寧を除く11人の宝玉姫たちが座っている。
彼女たちの前には晶羅と彩寧が並んで座っている。
晶羅は今回の結果について話している。
彩寧М(翌日、霞初様はまず見合いをした宝玉姫たちを労い、感謝を述べた)
晶羅、彩寧の背に手を添え。
彩寧М(次に私が新種の柘榴石の宝玉姫だったこと。そして私を花嫁として迎える旨を伝えた)
嬉しそうな晶羅に、彩寧もつられて微笑む。
彩寧がふと視線を前に戻すと、鬼の形相でこちらを見ている佳恵と目が合う。
彩寧М(ただ意外だったのが──)
恐怖からうつむく彩寧。
〇石切家・離れ
報告を終えた晶羅は、和臣と話している。
晶羅「あの彩寧の妹、よく怒りを抑えたな」
お茶を入れる彩寧。
晶羅「結果に納得せず、ひと悶着起こるかと思っていたんだが」
彩寧、二人の前に「どうぞ」とお茶の入った湯飲みを置く。
和臣「(彩寧に会釈し)おそらくあの父親が事前に伝えていたのでしょう」
晶羅「まぁ、何事もなく終わってよかった」
和臣「本家の方にも電報を送ったのですが、新種の件で向こうはかなり混乱しているらしく」
晶羅、お茶を飲みながら聞いている。
和臣「一刻も早く帰還し、当主の口から報告してほしいと」
晶羅「俺の決めた名前にでも文句でもあるのか? あいつらは」
彩寧「私はわかりやすくて、いいと思いますよ。『虹色柘榴石』」
晶羅「どちらにせよ送った通りだし、早く帰ったところで」
和臣「それが本家だけではなく、『十二玉将』も急かしているそうで」
晶羅、それを聞いて苦虫を嚙み潰したような顔に。
彩寧「『十二玉将』?」
和臣「霞初家を含む錺師の十二名家を指す呼称です」
和臣、眼鏡をかけ直す。眼鏡が「キラーン!」と光り、先生モードへ。
和臣「霞初家の柘榴石のように、それぞれ司る宝石と宝玉姫がいるのですが……これから嫌でも交流するでしょうから、彼らについては私が追々教えていきましょう」
彩寧「ありがとうございます!」
晶羅「しかしそうなると、明日中には発った方がいいだろう」
和臣「ではそのように手配します」
晶羅「頼む」
彩寧「あの、その前に幸枝さんのお墓参りに行ってもよろしいでしょうか? 次はいつ来れるかわからないので」
晶羅「なら俺も行こう。彩寧の恩人で親代わりのような人だ」
晶羅、彩寧を愛おしそうに見つめ。
晶羅「ぜひ俺にも挨拶させてくれ」
彩寧M(これって……)
彩寧、ドキドキする胸に手をやり。
彩寧M(け、結婚報告ってことだよね?)
和臣「場所はどこに?」
彩寧「村の外れで、少し山を登ったところにあります」
和臣「では動きやすい服に着替えましょうか」
◯石切家・表
着物から動きやすい袴姿に着替えた彩寧が1人、待っている。着物の柄はテッセンの花。
晶羅の声「悪い。待たせた」
彩寧が顔を向けると、そこには正装の着物から洋服に着替えた晶羅が。上はシャツにベストで、下はスラックスに革靴。
そして帯刀ベルトに刀を一本差している。
彩寧、初めて見る晶羅の洋装に目を輝かせて。
彩寧「霞初様も洋服をお召しになるのですね。素敵です!」
晶羅「和服も悪くないが、留学先で着てからはこちらの方が動きやすくて性に合う」
彩寧「ということは外つ国に? 洋服をカッコよく着こなすだけではなく、留学まで経験なさっているなんて」
彩寧、下心を感じさせない純粋無垢な笑顔で。
彩寧「霞初様は私が思っている以上に、ずーっとすごいお方なのですね!」
晶羅「(照れから目を逸らし)……まぁ、それほどでも」
彩寧「その刀は?」
晶羅「厭魅対策だ。ここ一帯は浄化石があるから必要ないかもしれないが、一応な」
晶羅、彩寧の姿を見て満足げに。
晶羅「今回は俺が見立てたが、彩寧もよく似合ってて可愛いよ……それに」
晶羅は悪戯っぽい笑みを浮かべて、自分のベストの裾を摘んで見せる。
晶羅「『お揃い』、だしな」
そこには彩寧の着物の柄と同じ、テッセンの花の刺繍がワンポイントで入っている。
彩寧「……あ、わ」
彩寧はキャパオーバーで、頭から湯気が出そうなほど真っ赤。
晶羅「さぁ、日が暮れる前に行こう」
◯花篝村の外れ〜花畑
彩寧が先導する形で山道を進む2人。
彩寧「供える花を摘むために寄り道してもよろしいでしょうか?」
晶羅「もちろん」
少し進むと、開けた場所に出る。そこには様々な野花が咲く花畑が。
晶羅「……いいところだな」
彩寧「ふふ、ありがとうございます」
彩寧、摘む花を選びつつ。
彩寧「まだ夢みたいです。私が霞初様の花嫁なんて……でも選ばれたからには、全力で責務を果たします! でなければ他の宝玉姫に顔向けできませんから」
彩寧、晶羅の方を向き。
彩寧「ただ私は今まで宝玉姫として育てられてきませんでした。そのせいで迷惑をおかけするかもしれませんが……」
晶羅、不安から彩寧の顔が曇るのを見て。
晶羅M(あぁ……俺は恋に浮かれて、彩寧をちゃんと見れていなかった)
晶羅「実は話しておきたいことがあるんだ。霞初家の先代の宝玉姫」
ザァッと一陣の風が吹き、花々を揺らす。
晶羅「──俺の母について」
(第5話に続く)
