M→モノローグ N→ナレーション キャラ名(年齢)※初出のみ
1話「原石の宝玉姫」
〇石切家・土蔵前(深夜)
霞初晶羅(22)が石切彩寧(18)を横抱き(お姫様抱っこ)している。
晶羅は顔を近づけ、彩寧の目を見て安心したように微笑む。
晶羅「あぁ、やはりその目は柘榴石だな」
彩寧М(私の目を柘榴石だと言ってくれる人なんていなかったのに)
彩寧、嬉しさから涙がこぼれそうになるのを堪える。
彩寧М(屑石と呼ばれた目を見て、どうしてそんな風に微笑んでくれるの?)
晶羅「──初めまして。原石の宝玉姫」
そんな2人を月明りと飛び交う蛍の光が幻想的に照らしている。
〇タイトル『宝石の花嫁は愛されて輝く』
〇花篝村(冒頭から時間は遡り、昼)
──極東の島国、豊葦原國。
自然豊かな山々に囲まれた平地。そこに流れる川に沿うように、集落と田畑が広がっている(明治~大正時代がモデルだが、都市部から離れた地方のため西洋化はあまりしていない)。
〇石切家・外観
立派な門扉、庭園のある日本家屋。
元造の声「遠路はるばるお越しいただき、ありがとうございます」
〇石切家・客間
立派な着物を着た晶羅(22)が座っている。その後ろに洋装の東雲和臣(23)が控えている。※晶羅は正統派王子様、和臣は眼鏡をかけたインテリ風の美形。
そんな晶羅たちに平伏する石切元造(40)と石切冴子(38)、石切佳恵(16)。顔を上げた元造、人好きそうな笑みを浮かべ、ニコニコとしている。
元造「花篝村の村長で、石切家当主の石切元造と申します。こちらは家内の冴子、そして一人娘の」
顔を上げ、微笑む佳恵。美貌もさることながら、大きな瞳は差し込む光を反射しキラキラと輝いている(この村の女性は全員、宝石の目を持つため、佳恵ほどではいが冴子も同様に輝く)。※佳恵はつり目で、気の強そうな美少女。
佳恵「佳恵と申します、霞初様。以後お見知りおきを」
佳恵の目のアップ(晶羅視点)。
晶羅M(──柘榴のような深く赤い宝石の目)
晶羅、感心した様子で。
晶羅「なるほど、これが花篝村の誇る柘榴石の『宝玉姫』か。素晴らしい……しかし」
晶羅、鋭い目で元造を貫く。
晶羅「見合いは3日後からのはずだ。少々、先走りすぎではないか?」
元造「顔見せもダメとは、手厳しい!」
遠回しに咎めているのに、元造は気にせずおおらかに笑っている。さすがの態度に、控えていた和臣はムッとした表情で口を挟む。
和臣「何を当たり前のことを。霞初様は厳正に見定めるために来ておられるのだぞ」
元造「ですが宝玉姫に生まれた娘にとっての最大の幸せは、あなた様のような『錺師』の伴侶になること」
晶羅の右手の甲には、錺師の証である丸い枠状の痣がある。※この痣は石座(宝石を留めるための台座)であり、宝玉姫と契ると相手の宝石が枠内に現れる。
元造「親心ゆえの行動だと目をつぶっていただければ」
相変わらず微笑んでいる元造だが、その目は笑っていない。
晶羅М(……舐めやがって)
晶羅「滞在する以上、顔を見合わせてしまうこともあるだろう。しかしそれ以上の接触は当日まで禁止だ」
元造「寛大なお心遣い感謝いたします」
元造、再び頭を下げる。
佳恵と目が合う和臣。次の瞬間、佳恵が勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
和臣N(宝石の加護を受けた存在『宝石姫』。宝石の目を持ち、必ず女性で生まれてくる)
その態度に和臣、ほんの少し眉をひそめる。
和臣N(だが彼女たちはただの『原石』に過ぎない。対となる『錺師』の男と契りを交わすことで磨かれて輝き──宝石の真の力『異能』を発揮することができる)
〇石切家・渡り廊下
荷物を持った使用人たちに案内され、離れに向かう晶羅と和臣。
和臣N(代々柘榴石の宝石姫を花嫁に迎え、引き出した異能で厭魅から国を守護してきた錺師の名家である霞初家)
和臣の目線の先には、晶羅の背──羽織にある「霞から覗く日の丸」の家紋。
和臣N(その当主を継承したのが霞初晶羅様だ)
晶羅、ふと敷地内にある土蔵が目に入る。
その窓の格子越しに人影が見えることに気づき(彩寧だが顔はわからず、髪を下ろした女性程度しかわからない)。
晶羅「……」
〇石切家・土蔵内
蔵の二階にある窓の傍で、差し込む日の光を頼りに針仕事をしている彩寧。
継ぎ接ぎだらけの粗末な着物を着ており、年齢の割に幼く見える顔にある柘榴石の目は長い前髪で隠れ気味(垣間見える彩寧の目の大きさは佳恵と同等だが、色が暗い赤褐色で透明度も低い)。
※彩寧は小動物のような雰囲気で、庇護欲を掻き立てられる美少女(なお見た目に反し、打たれ強さは作中トップ)。
ふと彩寧、窓の外に目を向ける。
彩寧「……騒がしかったけど、花嫁を探しに霞初家の方々が来たのかしら」
蔵の窓から一望できる村を眺めて。
彩寧M(この花篝村には柘榴石の加護を受けた石切家を含む、いくつかの一族が暮らしている。だからこの村で生まれる女性は全員が柘榴石の宝石姫だ)
〇18年前の石切家(彩寧の回想)
おくるみに包まれた生まれたばかりの彩寧、大きな声で泣いている。
彩寧М(私もその一人。だけど)
わずかに見えた彩寧の瞳を見て、元造は驚愕する。
元造「何だ! この目は……!」
当時から彩寧の瞳は、色など暗め。
彩寧М(宝玉姫の価値は全て『宝石の目』で決まる。そんな私の目は柘榴石でも、亜種の『灰鉄柘榴石』だった)
元造は自身の頭を掻きむしり、怒りで震える。
元造「色も暗く、透明度も低い──こんなの『屑石』じゃないか!!」
彩寧М(宝石は希少性さも大事だけど、重視されるのはやはり『美しさ』……それから両親は乳母に私の世話を全て任せた)
〇16年前の石切家(彩寧の回想)
おくるみに包まれた佳恵。
彩寧М(そして2年後に妹の佳恵が生まれてからは)
佳恵を見て、沸き立つ元造に冴子。そして親戚たち。
親戚1「でかした!!」
親戚2「次の霞初家の花嫁は、この子で間違いない!!」
それを離れたところで羨ましそうに見ていた2歳の彩寧、乳母に手を引かれて連れていかれる。
彩寧М(さらにいないもの同然になった)
〇8年前の村のはずれ(彩寧の回想)
村のはずれで、一人泣いている10歳の彩寧。みすぼらしい着物で、手入れもされずぼさぼさの髪。
幸枝の声「そこで泣いているのは誰かしら?」
彩寧が顔を上げると、幸枝(65)が立っている。
幸枝の顔には火傷の跡があり、特に酷い目は布を巻いて隠している。
彩寧М(乳母が去って一人になった私を救ってくれたのは、目の見えない幸枝さんだった)
幸枝、おにぎりを彩寧に与える。
彩寧М(幸枝さんは嫁ぎ先で宝石の目を失ったせいで、私と同じような扱いを受けていた)
彩寧、空腹から勢いよくおにぎりを食べる。
彩寧М(生きるのに必要な知識、術を教えてくれた幸枝さんは)
そんな彩寧の頭を撫でる幸枝。
〇3年前の幸枝の家(彩寧の回想)
幸枝の家に向かう15歳の彩寧、山で採った果物を抱えている。
彩寧М(私にとって家族同然の大切な人だった)
ボロ小屋のような家の戸を開けると、幸枝が倒れている。
それを見て彩寧は抱えていた果物を放り投げ、幸枝に駆け寄る。
彩寧「幸枝さん!!」
彩寧が抱き起すと、幸枝は口から血を吐いており、虫の息。
彩寧「しっかりして! 今、医者を──」
幸枝は首を横に振り、拒否する。
幸枝「彩寧さん、いいですか……私たちのような見捨てられた存在は、泣いたところで誰も助けてくれません」
彩寧の目からは、今にも涙がこぼれそうになっている。
幸枝「幸せになりたければ死に物狂いで足掻いて、努力しなさい」
幸枝は震える手を伸ばして、彩寧の頬に触れる。
彩寧「そうすればあなたの頑張りに気づいて、手を差し伸べてくれる人が現れるはずです」
幸枝、最後に微笑み。
幸枝「あなたのおかげで1人寂しく死なずに済みました。ありがとう……あの世から見守っていますからね」
(時間経過)
数日後、幸枝を埋葬した土の上に大き目の石を置く彩寧(体中が土だらけで、手は特に汚れている)。
目に滲んだ涙をぬぐい、石に合掌する彩寧。
〇3年前~1か月前の石切家(彩寧の回想)
必死に使用人として掃除、料理、洗濯など働いている彩寧。
彩寧М(この村から出るには嫁ぐしかない)
時々、佳恵や他の使用人から嫌がらせを受けている。
彩寧М(だから辛い雑用や仕事も、花嫁修業だと思えば苦じゃなかった)
干され、風にたなびく洗濯物を見て満足げに笑う彩寧。
〇1か月前の石切家(彩寧の回想)
お盆に乗ったお茶を運ぶ18になった彩寧。
彩寧М(霞初家からの使者が来たらしいけど、ついに佳恵との結婚についてかな?)
客間前に着き、ふすまを開けようとして。
元造の声「(ふすま越し)宝玉姫、全員と見合いをするだと!?」
彩寧М(……え?)
思わず、彩寧の手が止まる。
元造の声「どういうことだ! 慣例通りなら推薦で決まった村一の宝玉姫を花嫁に迎えるはずだろう!!」
霞初家の使者の声「これは当主命令です。期日までに村にいる結婚適齢期……15歳から25歳の宝玉姫全員の名簿を作り、送るように」
彩寧は期待でドキドキと早くなる鼓動を抑えるように、胸に手を当てる。
彩寧М(じゃあ、18の私も霞初様とお見合いすることができるってこと?)
彩寧の目は希望で満ちている(心を表すようにキラキラしている)。
〇3日前の石切家・土蔵(彩寧の回想)
突然、土蔵に乱暴に投げ入れられる彩寧。
それを見下ろす元造、冴子、佳恵。
元造「お前にはしばらくここにいてもらう」
彩寧「どうしてです!? もうすぐ見合いが始まるのに……」
それを聞いて佳恵は「プッ」と吹き出すと、大笑いをする。
佳恵「噓でしょ!? 自分も参加できると思ってたわけ?」
冴子「石切家の恥をお見せすると考えただけで、おぞましい!」
元造「そもそも先方に提出した名簿に、お前の名前はない」
彩寧「……そんな」
元造「だが見つかっては困るからな。終わるまで大人しくしていろ」
佳恵「じゃあね! 屑石姉さま!!」
そして無情にも蔵の扉が閉じられ、鍵を閉められる。
〇石切家・土蔵(夕~深夜)
夕方になり蔵の中は暗くなっていく中、引き続き針仕事をしている彩寧。
彩寧「痛っ!」
針が指に刺さり、血が出る。
彩寧「せめて、これくらい鮮やかな色だったら」
すると蔵の鍵が開く音がする。
彩寧が下に降りると、使用人(男)を連れた佳恵の姿が。
佳恵「どう? 着物の直しは終わった?」
彩寧「申し訳ございません。まだ……」
次の瞬間、佳恵は激高して彩寧の長い髪を掴む。
佳恵「何でできてないのよ! ずっとここにいるんだから時間はあったはずでしょ!?」
彩寧М(灯りがなくて無理なの。日が昇っている間は窓の近くに行けばできるけど、沈んだら真っ暗で何も見えない)
佳恵が引っ張ったまま、乱暴に揺さぶるせいで髪がブチブチと抜ける。
佳恵「せっかく霞初様との見合いに着ようと思っていたのに!!」
彩寧「申しわけ、申し訳ございません」
ある程度気は済んだのか、彩寧の髪を離す佳恵。
佳恵「……仕事もろくにできない人間に、食べさせるものはないわ」
そして佳恵は使用人が持ってきていたおにぎりを、彩寧の前にわざと落として踏みつける。
佳恵「何でアンタみたいな屑石がいるのかしらね? 美しくない宝玉姫に生きてる意味なんてないのに」
その言葉にショックを受け、固まる彩寧。
佳恵「いい? 明日までにできてなかったら、容赦しないから」
そして再び蔵の扉が閉まり、鍵がかけられる。
薄暗い中、彩寧はうつむいたまま動けない。
彩寧「幸恵さん。私、頑張ったよ。頑張ってきたけど……もう無理です。ここから、この村から出ることなんて」
そのうちに夜になり、蔵の中は彩寧の絶望を表すような真っ暗に。
けれど彩寧の前に、小さな光がフワッと現れる。
彩寧「蛍? どこから」
そこで彩寧、ハッとして。
彩寧М(扉が無理でも、窓からなら……!)
希望が見えた瞬間、彩寧のお腹が「グ~」と鳴る。
彩寧「(フフッと笑って)そうだよね、私はまだ生きてる」
彩寧、つぶれて土にまみれたおにぎりを蛍の光を頼りに拾って食べる。
ジャリジャリと口から音がするが、気にしない。
彩寧М(生きてる意味なんて後で考えればいい。今は──)
彩寧「足掻かなきゃ」
そして2階にある蔵の窓に向かい、窓の格子を掴んで揺する。
彩寧М(木だし、古いから頑張れば壊れるかもしれない)
彩寧、格子を叩いたり、体をぶつけ続ける。
時間が経ち深夜になり、わずかな月明りと蛍の光を頼りに続けていると「バキッ」という音が。
彩寧「!」
彩寧は格子を力いっぱい引っ張り、壊すことに成功する。
窓の外はちょうど入口の真上で小さな屋根の庇があり、這い出た彩寧はそこに立つ。
二階でそれほど高くないはずなのに、彩寧には異常に高く見える(心理的な恐怖から誇張されて見えている感じ)。
彩寧М(大丈夫、死ぬ高さじゃない。庇にぶら下がれば──)
慎重に一歩踏み出すが、滑って庇から落ちてしまう。
彩寧「きゃあ!」
彩寧は衝撃に備えて目をギュッと閉じるが、下にいた晶羅が横抱き(お姫様抱っこ)で咄嗟に受け止める。
晶羅「……間に合ってよかった」
恐る恐る目を開いた彩寧の瞳に、晶羅の顔が写る。
彩寧М(だ、誰?)
晶羅は抱いたままま顔を近づけ、彩寧の目をジッと観察してどこか安心したように微笑む。
晶羅「あぁ、やはりその目は柘榴石だな」
彩寧の脳裏に「本当にその目、柘榴石なの?」、「同じ宝玉姫扱いされたくないわ」、「屑石の分際で」と今まで佳恵や冴子、村の宝玉姫たちに言われてきた罵倒がリフレインする。
彩寧М(私の目を柘榴石だと言ってくれる人なんていなかったのに)
彩寧、嬉しさから涙がこぼれそうになるのを堪える。
彩寧М(屑石と呼ばれた目を見て、どうしてそんな風に微笑んでくれるの?)
晶羅「──初めまして。原石の宝玉姫」
そんな2人を祝福するかのように飛び交う多くの蛍が照らしている(幻想的な雰囲気で)。
(2話へ続く)
1話「原石の宝玉姫」
〇石切家・土蔵前(深夜)
霞初晶羅(22)が石切彩寧(18)を横抱き(お姫様抱っこ)している。
晶羅は顔を近づけ、彩寧の目を見て安心したように微笑む。
晶羅「あぁ、やはりその目は柘榴石だな」
彩寧М(私の目を柘榴石だと言ってくれる人なんていなかったのに)
彩寧、嬉しさから涙がこぼれそうになるのを堪える。
彩寧М(屑石と呼ばれた目を見て、どうしてそんな風に微笑んでくれるの?)
晶羅「──初めまして。原石の宝玉姫」
そんな2人を月明りと飛び交う蛍の光が幻想的に照らしている。
〇タイトル『宝石の花嫁は愛されて輝く』
〇花篝村(冒頭から時間は遡り、昼)
──極東の島国、豊葦原國。
自然豊かな山々に囲まれた平地。そこに流れる川に沿うように、集落と田畑が広がっている(明治~大正時代がモデルだが、都市部から離れた地方のため西洋化はあまりしていない)。
〇石切家・外観
立派な門扉、庭園のある日本家屋。
元造の声「遠路はるばるお越しいただき、ありがとうございます」
〇石切家・客間
立派な着物を着た晶羅(22)が座っている。その後ろに洋装の東雲和臣(23)が控えている。※晶羅は正統派王子様、和臣は眼鏡をかけたインテリ風の美形。
そんな晶羅たちに平伏する石切元造(40)と石切冴子(38)、石切佳恵(16)。顔を上げた元造、人好きそうな笑みを浮かべ、ニコニコとしている。
元造「花篝村の村長で、石切家当主の石切元造と申します。こちらは家内の冴子、そして一人娘の」
顔を上げ、微笑む佳恵。美貌もさることながら、大きな瞳は差し込む光を反射しキラキラと輝いている(この村の女性は全員、宝石の目を持つため、佳恵ほどではいが冴子も同様に輝く)。※佳恵はつり目で、気の強そうな美少女。
佳恵「佳恵と申します、霞初様。以後お見知りおきを」
佳恵の目のアップ(晶羅視点)。
晶羅M(──柘榴のような深く赤い宝石の目)
晶羅、感心した様子で。
晶羅「なるほど、これが花篝村の誇る柘榴石の『宝玉姫』か。素晴らしい……しかし」
晶羅、鋭い目で元造を貫く。
晶羅「見合いは3日後からのはずだ。少々、先走りすぎではないか?」
元造「顔見せもダメとは、手厳しい!」
遠回しに咎めているのに、元造は気にせずおおらかに笑っている。さすがの態度に、控えていた和臣はムッとした表情で口を挟む。
和臣「何を当たり前のことを。霞初様は厳正に見定めるために来ておられるのだぞ」
元造「ですが宝玉姫に生まれた娘にとっての最大の幸せは、あなた様のような『錺師』の伴侶になること」
晶羅の右手の甲には、錺師の証である丸い枠状の痣がある。※この痣は石座(宝石を留めるための台座)であり、宝玉姫と契ると相手の宝石が枠内に現れる。
元造「親心ゆえの行動だと目をつぶっていただければ」
相変わらず微笑んでいる元造だが、その目は笑っていない。
晶羅М(……舐めやがって)
晶羅「滞在する以上、顔を見合わせてしまうこともあるだろう。しかしそれ以上の接触は当日まで禁止だ」
元造「寛大なお心遣い感謝いたします」
元造、再び頭を下げる。
佳恵と目が合う和臣。次の瞬間、佳恵が勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
和臣N(宝石の加護を受けた存在『宝石姫』。宝石の目を持ち、必ず女性で生まれてくる)
その態度に和臣、ほんの少し眉をひそめる。
和臣N(だが彼女たちはただの『原石』に過ぎない。対となる『錺師』の男と契りを交わすことで磨かれて輝き──宝石の真の力『異能』を発揮することができる)
〇石切家・渡り廊下
荷物を持った使用人たちに案内され、離れに向かう晶羅と和臣。
和臣N(代々柘榴石の宝石姫を花嫁に迎え、引き出した異能で厭魅から国を守護してきた錺師の名家である霞初家)
和臣の目線の先には、晶羅の背──羽織にある「霞から覗く日の丸」の家紋。
和臣N(その当主を継承したのが霞初晶羅様だ)
晶羅、ふと敷地内にある土蔵が目に入る。
その窓の格子越しに人影が見えることに気づき(彩寧だが顔はわからず、髪を下ろした女性程度しかわからない)。
晶羅「……」
〇石切家・土蔵内
蔵の二階にある窓の傍で、差し込む日の光を頼りに針仕事をしている彩寧。
継ぎ接ぎだらけの粗末な着物を着ており、年齢の割に幼く見える顔にある柘榴石の目は長い前髪で隠れ気味(垣間見える彩寧の目の大きさは佳恵と同等だが、色が暗い赤褐色で透明度も低い)。
※彩寧は小動物のような雰囲気で、庇護欲を掻き立てられる美少女(なお見た目に反し、打たれ強さは作中トップ)。
ふと彩寧、窓の外に目を向ける。
彩寧「……騒がしかったけど、花嫁を探しに霞初家の方々が来たのかしら」
蔵の窓から一望できる村を眺めて。
彩寧M(この花篝村には柘榴石の加護を受けた石切家を含む、いくつかの一族が暮らしている。だからこの村で生まれる女性は全員が柘榴石の宝石姫だ)
〇18年前の石切家(彩寧の回想)
おくるみに包まれた生まれたばかりの彩寧、大きな声で泣いている。
彩寧М(私もその一人。だけど)
わずかに見えた彩寧の瞳を見て、元造は驚愕する。
元造「何だ! この目は……!」
当時から彩寧の瞳は、色など暗め。
彩寧М(宝玉姫の価値は全て『宝石の目』で決まる。そんな私の目は柘榴石でも、亜種の『灰鉄柘榴石』だった)
元造は自身の頭を掻きむしり、怒りで震える。
元造「色も暗く、透明度も低い──こんなの『屑石』じゃないか!!」
彩寧М(宝石は希少性さも大事だけど、重視されるのはやはり『美しさ』……それから両親は乳母に私の世話を全て任せた)
〇16年前の石切家(彩寧の回想)
おくるみに包まれた佳恵。
彩寧М(そして2年後に妹の佳恵が生まれてからは)
佳恵を見て、沸き立つ元造に冴子。そして親戚たち。
親戚1「でかした!!」
親戚2「次の霞初家の花嫁は、この子で間違いない!!」
それを離れたところで羨ましそうに見ていた2歳の彩寧、乳母に手を引かれて連れていかれる。
彩寧М(さらにいないもの同然になった)
〇8年前の村のはずれ(彩寧の回想)
村のはずれで、一人泣いている10歳の彩寧。みすぼらしい着物で、手入れもされずぼさぼさの髪。
幸枝の声「そこで泣いているのは誰かしら?」
彩寧が顔を上げると、幸枝(65)が立っている。
幸枝の顔には火傷の跡があり、特に酷い目は布を巻いて隠している。
彩寧М(乳母が去って一人になった私を救ってくれたのは、目の見えない幸枝さんだった)
幸枝、おにぎりを彩寧に与える。
彩寧М(幸枝さんは嫁ぎ先で宝石の目を失ったせいで、私と同じような扱いを受けていた)
彩寧、空腹から勢いよくおにぎりを食べる。
彩寧М(生きるのに必要な知識、術を教えてくれた幸枝さんは)
そんな彩寧の頭を撫でる幸枝。
〇3年前の幸枝の家(彩寧の回想)
幸枝の家に向かう15歳の彩寧、山で採った果物を抱えている。
彩寧М(私にとって家族同然の大切な人だった)
ボロ小屋のような家の戸を開けると、幸枝が倒れている。
それを見て彩寧は抱えていた果物を放り投げ、幸枝に駆け寄る。
彩寧「幸枝さん!!」
彩寧が抱き起すと、幸枝は口から血を吐いており、虫の息。
彩寧「しっかりして! 今、医者を──」
幸枝は首を横に振り、拒否する。
幸枝「彩寧さん、いいですか……私たちのような見捨てられた存在は、泣いたところで誰も助けてくれません」
彩寧の目からは、今にも涙がこぼれそうになっている。
幸枝「幸せになりたければ死に物狂いで足掻いて、努力しなさい」
幸枝は震える手を伸ばして、彩寧の頬に触れる。
彩寧「そうすればあなたの頑張りに気づいて、手を差し伸べてくれる人が現れるはずです」
幸枝、最後に微笑み。
幸枝「あなたのおかげで1人寂しく死なずに済みました。ありがとう……あの世から見守っていますからね」
(時間経過)
数日後、幸枝を埋葬した土の上に大き目の石を置く彩寧(体中が土だらけで、手は特に汚れている)。
目に滲んだ涙をぬぐい、石に合掌する彩寧。
〇3年前~1か月前の石切家(彩寧の回想)
必死に使用人として掃除、料理、洗濯など働いている彩寧。
彩寧М(この村から出るには嫁ぐしかない)
時々、佳恵や他の使用人から嫌がらせを受けている。
彩寧М(だから辛い雑用や仕事も、花嫁修業だと思えば苦じゃなかった)
干され、風にたなびく洗濯物を見て満足げに笑う彩寧。
〇1か月前の石切家(彩寧の回想)
お盆に乗ったお茶を運ぶ18になった彩寧。
彩寧М(霞初家からの使者が来たらしいけど、ついに佳恵との結婚についてかな?)
客間前に着き、ふすまを開けようとして。
元造の声「(ふすま越し)宝玉姫、全員と見合いをするだと!?」
彩寧М(……え?)
思わず、彩寧の手が止まる。
元造の声「どういうことだ! 慣例通りなら推薦で決まった村一の宝玉姫を花嫁に迎えるはずだろう!!」
霞初家の使者の声「これは当主命令です。期日までに村にいる結婚適齢期……15歳から25歳の宝玉姫全員の名簿を作り、送るように」
彩寧は期待でドキドキと早くなる鼓動を抑えるように、胸に手を当てる。
彩寧М(じゃあ、18の私も霞初様とお見合いすることができるってこと?)
彩寧の目は希望で満ちている(心を表すようにキラキラしている)。
〇3日前の石切家・土蔵(彩寧の回想)
突然、土蔵に乱暴に投げ入れられる彩寧。
それを見下ろす元造、冴子、佳恵。
元造「お前にはしばらくここにいてもらう」
彩寧「どうしてです!? もうすぐ見合いが始まるのに……」
それを聞いて佳恵は「プッ」と吹き出すと、大笑いをする。
佳恵「噓でしょ!? 自分も参加できると思ってたわけ?」
冴子「石切家の恥をお見せすると考えただけで、おぞましい!」
元造「そもそも先方に提出した名簿に、お前の名前はない」
彩寧「……そんな」
元造「だが見つかっては困るからな。終わるまで大人しくしていろ」
佳恵「じゃあね! 屑石姉さま!!」
そして無情にも蔵の扉が閉じられ、鍵を閉められる。
〇石切家・土蔵(夕~深夜)
夕方になり蔵の中は暗くなっていく中、引き続き針仕事をしている彩寧。
彩寧「痛っ!」
針が指に刺さり、血が出る。
彩寧「せめて、これくらい鮮やかな色だったら」
すると蔵の鍵が開く音がする。
彩寧が下に降りると、使用人(男)を連れた佳恵の姿が。
佳恵「どう? 着物の直しは終わった?」
彩寧「申し訳ございません。まだ……」
次の瞬間、佳恵は激高して彩寧の長い髪を掴む。
佳恵「何でできてないのよ! ずっとここにいるんだから時間はあったはずでしょ!?」
彩寧М(灯りがなくて無理なの。日が昇っている間は窓の近くに行けばできるけど、沈んだら真っ暗で何も見えない)
佳恵が引っ張ったまま、乱暴に揺さぶるせいで髪がブチブチと抜ける。
佳恵「せっかく霞初様との見合いに着ようと思っていたのに!!」
彩寧「申しわけ、申し訳ございません」
ある程度気は済んだのか、彩寧の髪を離す佳恵。
佳恵「……仕事もろくにできない人間に、食べさせるものはないわ」
そして佳恵は使用人が持ってきていたおにぎりを、彩寧の前にわざと落として踏みつける。
佳恵「何でアンタみたいな屑石がいるのかしらね? 美しくない宝玉姫に生きてる意味なんてないのに」
その言葉にショックを受け、固まる彩寧。
佳恵「いい? 明日までにできてなかったら、容赦しないから」
そして再び蔵の扉が閉まり、鍵がかけられる。
薄暗い中、彩寧はうつむいたまま動けない。
彩寧「幸恵さん。私、頑張ったよ。頑張ってきたけど……もう無理です。ここから、この村から出ることなんて」
そのうちに夜になり、蔵の中は彩寧の絶望を表すような真っ暗に。
けれど彩寧の前に、小さな光がフワッと現れる。
彩寧「蛍? どこから」
そこで彩寧、ハッとして。
彩寧М(扉が無理でも、窓からなら……!)
希望が見えた瞬間、彩寧のお腹が「グ~」と鳴る。
彩寧「(フフッと笑って)そうだよね、私はまだ生きてる」
彩寧、つぶれて土にまみれたおにぎりを蛍の光を頼りに拾って食べる。
ジャリジャリと口から音がするが、気にしない。
彩寧М(生きてる意味なんて後で考えればいい。今は──)
彩寧「足掻かなきゃ」
そして2階にある蔵の窓に向かい、窓の格子を掴んで揺する。
彩寧М(木だし、古いから頑張れば壊れるかもしれない)
彩寧、格子を叩いたり、体をぶつけ続ける。
時間が経ち深夜になり、わずかな月明りと蛍の光を頼りに続けていると「バキッ」という音が。
彩寧「!」
彩寧は格子を力いっぱい引っ張り、壊すことに成功する。
窓の外はちょうど入口の真上で小さな屋根の庇があり、這い出た彩寧はそこに立つ。
二階でそれほど高くないはずなのに、彩寧には異常に高く見える(心理的な恐怖から誇張されて見えている感じ)。
彩寧М(大丈夫、死ぬ高さじゃない。庇にぶら下がれば──)
慎重に一歩踏み出すが、滑って庇から落ちてしまう。
彩寧「きゃあ!」
彩寧は衝撃に備えて目をギュッと閉じるが、下にいた晶羅が横抱き(お姫様抱っこ)で咄嗟に受け止める。
晶羅「……間に合ってよかった」
恐る恐る目を開いた彩寧の瞳に、晶羅の顔が写る。
彩寧М(だ、誰?)
晶羅は抱いたままま顔を近づけ、彩寧の目をジッと観察してどこか安心したように微笑む。
晶羅「あぁ、やはりその目は柘榴石だな」
彩寧の脳裏に「本当にその目、柘榴石なの?」、「同じ宝玉姫扱いされたくないわ」、「屑石の分際で」と今まで佳恵や冴子、村の宝玉姫たちに言われてきた罵倒がリフレインする。
彩寧М(私の目を柘榴石だと言ってくれる人なんていなかったのに)
彩寧、嬉しさから涙がこぼれそうになるのを堪える。
彩寧М(屑石と呼ばれた目を見て、どうしてそんな風に微笑んでくれるの?)
晶羅「──初めまして。原石の宝玉姫」
そんな2人を祝福するかのように飛び交う多くの蛍が照らしている(幻想的な雰囲気で)。
(2話へ続く)
